持株比率が何%あれば経営を安定させられるのか、議決権比率と何が違うのか、迷う経営者・創業者は多いはずです。本記事は2026年7月時点の会社法・税法に基づき、持株比率の基本、議決権比率・出資比率との違い、1%・3%・2/3・90%で変わる株主の権利、自己株式の扱い、税務上の完全支配関係までを一次ソースから整理します。個別の意思決定は弁護士・税理士など専門家への相談も検討しましょう。
持株比率とは?議決権比率・出資比率との違い

「持株比率」という言葉は日常的によく使われますが、実は会社法にも法人税法にも明確な定義規定はありません。一般的な語義と、混同されやすい議決権比率・出資比率との違いを整理します。
持株比率の基本的な意味と計算式
持株比率は、一般に「保有株式数÷発行済株式総数×100」で表される割合を指す言葉です。会社法にも法人税法にも、持株比率という言葉自体を定義した条文はありません。株式を何株持っているかを示す、シンプルな指標として押さえておきましょう。
持株比率と議決権比率がズレる2つの理由
持株比率と議決権比率がズレる理由は主に2つあります。まず、自己株式には議決権がありません(会社法308条2項)。次に、自社が相手方会社の議決権の4分の1以上を持つ場合、その相手方会社は自社の株主総会で議決権を行使できないという点です(308条1項、相互保有株式)。なお、単元株式数を定款で定めている場合は、1単元につき1個の議決権となる点も覚えておきましょう。
持株比率と出資比率・持分比率との違い
呼び方にも違いがあります。「出資比率」「持分比率」も「持株比率」と同じく、法令上の定義規定はありません。会社法が条文で使うのは、合同会社などの持分会社なら585条が定める「持分」という言葉です。しかも持分会社の業務は、590条2項により、定款に別段の定めがなければ出資額ではなく社員の過半数で決まります。出資額の割合が効いてくるのは、622条1項が定める損益分配の場面です。
出典:e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第308条(議決権の数)/e-Gov法令検索 会社法施行規則(平成十八年法務省令第十二号)第67条(実質的に支配することが可能となる関係)/e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第585条(持分の譲渡)/e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第590条(業務の執行)/e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第622条(社員の損益分配の割合)
持株比率が左右する株主総会の決議要件(普通決議・特別決議)

ここからは株主総会の決議要件を条文に沿って整理します。本記事は2026年7月時点の会社法に基づいています。特別決議が必要な事業譲渡や合併等はM&Aの場面でも問題になるため、企業価値を高める方法とは?M&Aを見据えた自社株評価と財務改善の実践ガイドもあわせて参考にしてください。
過半数(50%超)で成立する普通決議と役員選解任の例外
普通決議は、議決権を行使できる株主の過半数が出席し、出席株主の議決権の過半数で成立します(会社法309条1項)。定款で定めれば定足数を排除・軽減することも可能です。ただし、取締役・会計参与・監査役といった役員の選任・解任の決議は例外で、定足数を3分の1未満に引き下げることはできません(341条)。
出席株主の議決権3分の2以上が必要な特別決議
特別決議は、議決権の過半数を持つ株主が出席し(定款で3分の1以上まで引下げ可)、出席株主の議決権の3分の2(約66.7%)以上の賛成で成立します(会社法309条2項)。この3分の2は総議決権ではなく、あくまで出席した株主の議決権に対する割合です。対象は定款変更(466条)や事業譲渡、解散、組織再編など多岐にわたります。単独可決には、自ら出席する前提で総議決権の3分の2以上の保有が目安です。
出典:e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第309条(株主総会の決議)/e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)/e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第466条(定款の変更)
持株比率1%・3%・90%で行使できる株主の権利(会社の機関設計で変わる要件)

持株比率が1%や3%あると行使できる株主の権利には、実は前提条件があります。中小企業の多くは取締役会を設置していない非公開会社であり、その場合は要件が大きく変わる点に注意しましょう。
1%以上で行使できる株主提案権は取締役会設置会社だけの要件
取締役会設置会社では、総株主の議決権の1%以上または議決権300個以上を6か月前から保有する株主に、株主提案権(議題提案権)が認められます(会社法303条2項)。取締役会を設置していない会社では、保有割合を問わず議題提案が可能です(303条1項)。また非公開会社では「6か月保有」の要件が外れ、有していれば足ります。
3%以上で行使できる会計帳簿閲覧請求権と株主総会招集請求権
会計帳簿閲覧謄写請求権は、議決権の3%または発行済株式(自己株式を除く)の3%を持つ株主に認められ、保有期間の要件はありません(会社法433条)。一方、株主総会の招集請求権は、議決権の3%以上を6か月前から保有していることが条件です(297条、非公開会社は6か月不要)。招集手続が行われない場合は、裁判所の許可を得て自ら招集できます。
「3%あれば役員を解任できる」は誤解
「3%を持てば役員を解任できる」という理解は誤りです。会社法854条の役員解任の訴えは、①不正行為等の重大事由があり、②解任議案が株主総会で否決され、③その総会の日から30日以内に訴えを提起する、という限定的な制度です。単独の意思だけで解任できる権利ではない点に注意しましょう。
90%以上で生じる特別支配株主の株式等売渡請求
総株主の議決権の10分の9(90%)以上を持つ株主は、特別支配株主として、他の株主全員に株式の売渡しを請求できます(会社法179条1項、いわゆるスクイーズアウト)。判定基準は議決権ベースで、特別支配株主の完全子法人が保有する分も合算されます。
出典:e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第303条(株主提案権)/e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第297条(株主による招集の請求)/e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第433条(会計帳簿の閲覧等の請求)/e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第854条(株式会社の役員の解任の訴え)/e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第179条(株式等売渡請求)
持株比率の計算方法と自己株式の扱い

持株比率の計算式自体はシンプルですが、自己株式を分母に含めるかどうかは、何の判定に使うかによって異なる点がポイントです。上場企業の有価証券報告書でも、大株主の状況欄は発行済株式から自己株式を除いた数を分母にしています。
会社法・法人税法における自己株式の定義
自己株式とは、会社法113条4項が定める「株式会社が有する自己の株式」のことです。法人税法も同じ考え方を採っており、支配関係・完全支配関係の判定基準となる「発行済株式等」は、法人税法2条12号の7の5により「当該法人が有する自己の株式又は出資を除く」と定義されています。法令が自己株式の除外を明示する場面に限れば、会社法・税法のどちらも分母からあらかじめ差し引く建付けです。
自己株式は分母から除くべき?会社法が使い分ける2つの物差し
自己株式には議決権がないため(会社法308条2項)、議決権比率の計算では自己株式は分母の対象外です。一方、433条は「議決権の3%」と「発行済株式(自己株式を除く)の3%」を条文内で併記しており、会社法自身が場面ごとに異なる分母を使い分けています。「自己株式は必ず除く」と一律に考えるのではなく、何の判定に使う比率かで分母が変わる、と理解しておきましょう。
出典:e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第113条(発行可能株式総数)/e-Gov法令検索 法人税法(昭和四十年法律第三十四号)第2条(定義)第12号の7の5/e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第308条(議決権の数)/e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第433条(会計帳簿の閲覧等の請求)/e-Gov法令検索 企業内容等の開示に関する内閣府令 第三号様式(有価証券報告書)
創業者・経営者が持株比率の設計で押さえておきたいこと

自社の株主構成をどう設計するかは、創業や事業承継の場面で必ず向き合うテーマです。後継者の持株比率がまだ十分でない段階では、拒否権付種類株式(黄金株)を組み合わせて経営の安定を図る方法もあります。詳しくは黄金株(拒否権付種類株式)とは?事業承継で後継者の暴走を防ぐ5つの活用法と導入リスクを参照してください。
複数の共同創業者で持株比率を均等にしない理由
共同創業者間で持株比率を50:50のように均等にすると、意思決定が膠着しやすくなります。普通決議は過半数、特別決議は出席株主の議決権の3分の2以上が必要なため(会社法309条)、均等な持株比率では重要な議案を単独で通せない状況に陥りかねません。役割や出資額に応じた配分は、事前によく話し合っておきましょう。
株式が分散すると起きるリスク
相続で株式が多数の相続人に分散すると、株主管理コストが増加し、株式の買取りを請求されて資金が流出するおそれがあります(中小企業庁「事業承継ガイドライン」令和4年3月改訂版)。対策として、経営方針に賛同する安定株主を導入し、安定多数の議決権割合を確保する考え方も紹介されています。
持株比率が低い後継者を補う拒否権付種類株式(黄金株)
後継者が経営に習熟するまでの間、先代経営者が取締役の選任・解任や多額の投資、事業譲渡や合併といった重要事項に拒否権を持つ設計が拒否権付種類株式(黄金株)です。導入には株主総会の特別決議による定款変更が必要で、前段で触れた決議要件がここでも関わってきます。
出典:事業承継ガイドライン(第3版)令和4年3月改訂 中小企業庁/e-Gov法令検索 会社法(平成十七年法律第八十六号)第309条(株主総会の決議)
持株比率100%だけじゃない?税務上の完全支配関係と同族会社の判定

持株比率は、ぴったり100%とは限らない点に注意しましょう。税務上は完全支配関係と判定されると、グループ法人税制が適用されます。詳しくはグループ法人税制とは?完全支配関係から注意点まで解説を参照してください。
完全支配関係は持株比率100%とは限らない(従業員持株会の5%ルール)
完全支配関係は本来「発行済株式等の全部」の保有関係を指しますが、一定の要件を満たす従業員持株会の保有割合が5%未満なら、その株式を除いて判定します。国税庁の設例では、発行済株式100,000株のうち親会社98,000株・従業員持株会2,000株というケースでも、完全支配関係は「有」と判定されます。対象は証券会社方式の持株会に限られ、信託銀行方式は対象外です。
同族会社の「株主3人以下」は株主グループの数を指す
同族会社の判定でいう「3人以下」は、株主等とその特殊関係者をまとめた株主グループの数を指し、株主の人数そのものではありません(法人税法2条10号)。株式数だけでは同族会社に該当しない場合でも、議決権制限株式を発行しているときなどは、議決権による判定を別途行う必要があります。
事業承継税制の納税猶予対象にも「3分の2」という上限がある(一般措置)
法人版事業承継税制の一般措置では、納税猶予の対象となる株式は総株式数の最大3分の2が上限です(特例措置では全株式が対象)。持株比率の「3分の2」という閾値は、株主総会の特別決議だけでなく税制の場面にも現れます。制度の適用条件は個別の状況で変わるため、税理士への確認をおすすめします。
出典:完全支配関係と通算完全支配関係の意義|国税庁/国税庁「グループ法人税制に関するQ&A」問3 完全支配関係における5%ルール/e-Gov法令検索 法人税法(昭和四十年法律第三十四号)第2条(定義)第10号/2 同族会社|国税庁(法人税基本通達1-3-1 株式会社における同族会社の判定)/No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)|国税庁
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持株比率についてよくある質問
Q1. 持株比率と議決権比率の違いは何ですか?
持株比率は発行済株式数に占める保有株式数の割合、議決権比率は行使できる議決権の割合を指します。自己株式には議決権がなく(会社法308条2項)、自社が議決権の4分の1以上を持つ相手方会社は自社の株主総会で議決権を行使できないため(308条1項)、両者はズレることがあります。
Q2. 持株比率は自己株式も含まれますか?
持株比率が自己株式を含むかどうかは、一概には言えない問題です。何の判定に使う比率かによって、条文が指定する分母が変わります。会社法433条は「議決権の3%」と「発行済株式(自己株式を除く)の3%」を条文内で併記しており、場面ごとに物差しが異なる会社法の建付けを踏まえておきましょう。
Q3. 会社設立時の持株比率はどう決めればよいですか?
「〇%を確保すべき」という一律の答えはありません。普通決議は過半数、特別決議は出席株主の議決権の3分の2以上という決議要件(会社法309条)を踏まえたうえで、共同創業者間で役割や出資額に応じてよく話し合っておきましょう。
Q4. 持株比率が90%以上だとどうなりますか?
会社法上は、総株主の議決権の90%以上を持つと特別支配株主として株式等売渡請求(スクイーズアウト)が可能になります(179条1項)。一方、税務上の完全支配関係は原則100%の保有関係で判定され、両者は別の制度です。5%ルールにより98%等でも完全支配関係と判定される場合もあります。
Q5. 上場企業の持株比率はどうやって調べられますか?
上場企業の持株比率を確認できる代表的な方法が、金融庁のEDINETです。大株主の状況は、発行済株式(自己株式を除く)の総数を分母にした所有株式数の割合として記載されています(第三号様式)。所有株式数の多い順に10名程度が記載される欄で、有価証券報告書は公衆の縦覧に供される公開情報です。
出典:e-Gov法令検索 企業内容等の開示に関する内閣府令(昭和四十八年大蔵省令第五号)第三号様式(有価証券報告書)/e-Gov法令検索 金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第25条(有価証券届出書等の公衆縦覧)/EDINETについて:金融庁
まとめ:持株比率の節目を押さえて会社の意思決定を安定させよう
持株比率は数字通りに経営権を保証するものではなく、議決権比率・自己株式の扱い・税務上の完全支配関係によって意味が変わる指標です。1%・3%・2/3・90%という節目ごとに会社法上の権利が変わり、税務上は5%ルールで100%未満でも完全支配関係と判定される場合があります。自社の株主構成に不安があれば、専門家への相談も検討してみてください。
まずはお気軽にご相談ください。