企業価値を高める方法とは?M&Aを見据えた自社株評価と財務改善の実践ガイド
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企業価値の向上を図りたいのに、どこから手をつければよいかわからない——そう悩む中小企業の経営者は少なくありません。本記事では、評価方法の基礎から税務上の自社株評価とM&A取引価格の違い、財務改善の具体的な指標まで、財務・税務コンサルの視点で順を追って解説します。

北薗 寛人カルロ
監修者
Encoach株式会社代表 北薗 寛人カルロ
2008年よりファッションモデルとして活動し、パリコレ出演やUNIQLO世界広告などの実績を持つ。2015年から従業員1,000人超規模の大手税理士法人にて経験を積み、顧客紹介実績やMVP受賞などの実績を経て、2021年に独立・Encoach株式会社を設立。現在は財務を主軸に、経営者の意思決定と実行を支える伴走型コンサルティングを数多くのクライアントに対して提供。

そもそも企業価値とは何か——事業価値・株式価値との関係を整理する

企業価値・事業価値・株式価値の関係を示した構造図(企業価値=事業価値+非事業用資産、株式価値=企業価値-有利子負債)

企業価値の基本構造を押さえることが、改善施策の出発点です。 銀行融資の審査からM&Aの売却価格交渉まで、「企業価値」という言葉は場面によって意味が少し異なります。ここで整理するのは、M&A実務・財務評価全般で使われる概念です。なお、後述の税務上の評価(相続税・贈与税目的)とは目的が根本的に異なる点を、最初に確認しておきましょう。

銀行融資との関係を詳しく知りたい方は「銀行融資のメリット・デメリットとは?種類・審査の流れ・他の資金調達との比較まで解説」もあわせてご覧ください。

企業価値・事業価値・株式価値の関係式

企業価値は「事業価値+非事業用資産」で構成され、株式価値は「企業価値-有利子負債」で求められます。 事業価値とは、事業活動が将来生み出すキャッシュフローの現在価値合計のこと。非事業用資産は遊休資産や余剰資金など、フリーキャッシュフローの増加に直接関係しない資産を指します。この2つの関係式を押さえておくと、後の評価方法の議論がぐっと理解しやすくなるはずです。

企業価値を高めることで何が変わるか(メリット3点)

企業価値を高めると、銀行融資の条件改善・M&A売却価格の最大化・倒産リスクの低減という3つの変化が生まれます。 融資審査では財務体質の強さが金利や限度額に直結するため、成長性や収益性の高い企業ほど有利な条件を引き出せます。M&Aでは評価額の高さがそのまま売却価格の上限となり、倒産リスクについては自己資本の厚みが安全網です。財務体質を磨くことは、複数の経営課題を同時に前進させる取り組みに他なりません。

企業価値の評価方法——JICPA基準で押さえる3つのアプローチ

企業価値評価の3アプローチ(インカムアプローチ=DCF法・マーケットアプローチ=類似会社比較法・コストアプローチ=ネットアセット法)の特徴を比較した図

日本公認会計士協会(JICPA)の「企業価値評価ガイドライン」では、評価手法を3つに分類しています。 それぞれ特性と適用場面が異なるため、評価目的に応じた使い分けが実務の出発点です。以下で各アプローチの概要を確認しましょう。

インカムアプローチ——将来キャッシュフローで算定するDCF法

インカムアプローチの代表がDCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)法で、将来のフリーキャッシュフローを割引率で現在価値に換算して企業価値を算定します。 収益性や資本コストを反映した評価ができるため、「稼ぐ力がそのまま企業価値に直結する」という理解に近い手法です。将来の成長シナリオを組み込める点が強みである一方、前提となるキャッシュフロー予測の精度に評価額が左右されます。

出典:日本公認会計士協会「経営研究調査会研究報告第32号 企業価値評価ガイドライン」

マーケットアプローチ——類似企業の取引価格を基準にする

マーケットアプローチは、評価対象企業と類似する上場企業の株価や、類似M&A取引で成立した価格を基準に、倍率(マルチプル)を乗じて価値を算出する方法です。 代表的な手法が「類似会社比較法(マルチプル法)」で、市場実態を反映した評価が可能です。ただし中小企業では直接比較できる上場類似企業の選定が難しく、精度が下がりやすいという実務上の制約もあります。

出典:日本公認会計士協会「経営研究調査会研究報告第32号 企業価値評価ガイドライン」

コストアプローチ——純資産を基準に評価するネットアセット法

コストアプローチ(ネットアセット・アプローチ)は、会社の純資産を基準に企業価値を評価する方法です。 「簿価純資産法」(会計上の純資産額をそのまま使用)と、全資産・負債を時価に置き換えて純資産を算出する「時価純資産法」の2種類があります。時価純資産法は中小M&Aでも広く活用されており、後述の税務上の評価とも概念的なつながりがあります。

出典:日本公認会計士協会「経営研究調査会研究報告第32号 企業価値評価ガイドライン」

【重要】税務上の自社株評価とM&A取引価格は別物——混同が招く判断ミス

税務上の自社株評価とM&A取引価格の違いを目的・手法・根拠法令で対比した比較図

非上場株式の評価には「税務目的」と「M&A取引価格の算定」という2種類の目的があり、これを混同すると重大な判断ミスを招きます。 「税理士から株価が高いと言われたのに、M&A仲介会社には安いと言われた」という相談は実際に多く寄せられます。この違いを正しく理解しておくことが、M&Aや事業承継を検討するうえでの前提条件です。

財産評価基本通達による税務上の評価(相続税・贈与税目的)

財産評価基本通達による非上場株式の評価は、相続税・贈与税の課税価格を公平・画一的に決めるための税務申告ルールです。 国税庁「No.4638」に基づき、会社の規模(大会社・中会社・小会社)に応じて①類似業種比準方式、②純資産価額方式、③配当還元方式(少数株主向け特例)を使い分けます。中会社は2方式を一定比率で併用します(比率は通達改正で変わる場合があります)。

出典:国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」

M&A取引価格の算定(売り手・買い手の合意ベース)

M&Aでの売却価格は、財産評価基本通達とは異なり、DCF・年買法・EV倍率法などの評価をもとに、売り手と買い手が合意して決まる取引価格です。 相続税の評価が誰に対しても公平な画一的ルールであるのに対し、M&A価格は当事者の交渉・状況で柔軟に決まります。税務評価額が高くてもM&A価格の高さに直結するわけではなく、デューデリジェンスで見える収益力や成長性が価格に反映されます。

出典:セゾンカード「M&Aでも活用される財産評価基本通達。さまざまな財産の評価方法を解説」

北薗 寛人カルロ
Encoach株式会社代表
北薗 寛人カルロ
ここは経営者の方が最もつまずきやすいポイントです。相続税の自社株評価額とM&Aで実際に付く値段はまったくの別物で、片方の数字を頭に入れたまま交渉に臨むと判断を誤ります。『何のための評価か』を最初に切り分けてから数字を見る——この一手間が、後悔のない意思決定につながります。

中小企業が使える自社株評価の簡易計算方法

自社株評価の簡易計算3手法(年買法・EV/EBITDA倍率法・時価純資産法)の計算式と特徴を示すフロー図

M&A価格の目安を事前に把握しておくと、売却準備のゴール設定がしやすくなります。以下で紹介する3手法はあくまで「おおよその目線合わせ」に使う実務上の簡便法であり、正式な企業価値算定は公認会計士・M&Aアドバイザーへの依頼が前提であることをご承知おきください。

年買法(年倍法)——時価純資産+のれんで算出する最もシンプルな手法

年買法の計算式は「企業価値≒時価純資産+のれん(営業利益×N年分)」で、中小企業のM&Aで広く活用される簡易的な評価手法です。

ここでのNは実務上1〜5年の幅で、当事者の合意で決まります。ファイナンス理論上の明確な根拠はなく、相場は「3〜5年とされることが多い」という目安です。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも参考手法として触れられますが、年数に決まりはない点は押さえておきましょう。

EV/EBITDA倍率法——本業の稼ぐ力を倍率で評価する

EV/EBITDA倍率法は、企業価値(EV)をEBITDA(利払・税・償却前利益)で割った倍率で評価する手法です。

EVは正式には「株式時価総額+純有利子負債+少数株主持分」で、中小M&Aではこれがゼロのため「株式時価総額+純有利子負債」を使います。EBITDAは営業利益に減価償却費を加えた利益で、買収額を何年分の利益で回収できるかの目安です。倍率は業種・規模で大きく異なり、断定はできません。

簡易計算を試算するときの注意点

3手法はいずれも「売却価格の大まかな目線合わせ」に過ぎず、正式な企業価値算定は専門家への依頼が前提です。 「自社の評価額を上げたい」という方は、まず収益性や財務体質の見直しから着手するのが現実的な順序です。試算で出た数字はあくまで出発点と捉え、改善余地の大きい指標から優先的に手をつけていきましょう。

年買法・EV/EBITDA倍率法・時価純資産法の計算式の骨格・向いているケース・注意点を一覧化した比較表

財務指標から企業価値を改善する——ROE・ROIC・自己資本比率の読み方

ROE・ROIC・WACCの関係図(ROICがWACCを上回ると企業価値が拡大することを示す図)

ROEなどの財務指標は、企業価値を測る物差しとして機能します。 指標の数字だけを追うのではなく、それぞれが何を意味するのかを理解することが財務改善の第一歩であり、数字の「読み方」を知ることが経営判断の精度を高める近道です。ROEとROAの違いについては「ROEとROAの違いとは?計算式・目安・改善方法をわかりやすく解説」でも詳しく解説しています。

ROE8%が一つの目安——経産省「伊藤レポート」の背景

経済産業省の伊藤レポート(2014年)は、日本企業に対して少なくともROE8%を上回ることを目指すよう求めた政策文書です。 グローバルな機関投資家が日本企業に期待する資本コストの平均は7%超で、ROEが8%を超えると約9割の投資家の期待を上回る——が根拠です。非上場の中小企業でも、資本効率を意識すれば銀行融資やM&Aでの評価に直結します。収益性の改善は外部からの信頼獲得にもつながります。

出典:経済産業省「持続的成長への競争力とインセンティブ〜企業と投資家の望ましい関係構築〜プロジェクト最終報告書(伊藤レポート)平成26年8月」

ROICとWACCのスプレッドが企業価値拡大の鍵

ROIC(投下資本利益率)は「税引後営業利益÷投下資本(有利子負債+株主資本)」で計算し、投じた資本に対する利益効率を示す指標です。 ROICがWACC(加重平均資本コスト)を上回ると企業価値は拡大し、下回ると毀損するという原則があります。ただし中小企業でROICとWACCを正確に計算できるケースは多くありません。まずROEと自己資本比率を把握し、財務体質の全体像をつかむことが現実的な出発点です。

出典:野村総合研究所「ROIC(投下資本利益率)用語解説」

北薗 寛人カルロ
Encoach株式会社代表
北薗 寛人カルロ
企業価値を高めると聞くと特別な施策を思い浮かべがちですが、実際はROICがWACCを上回る状態を地道に作ることが王道です。自己資本比率・流動比率・債務償還年数といった融資担当者が必ず見る指標を整えるだけでも評価は着実に変わります。まずは決算書から自社の現在地を数字で把握するところから始めましょう。

財務体質の改善から始める企業価値向上

財務体質改善の3指標(自己資本比率・流動比率・債務償還年数)の計算式・目安・改善策をまとめた図

銀行融資の審査では財務指標の水準が直接評価され、企業価値の高さが資金調達条件に影響します。 自己資本比率・流動比率・債務償還年数は、融資担当者が必ず確認する3指標です。それぞれの水準と改善方向を把握しておきましょう。自己資本比率については「自己資本比率の目安とは?業種別の適正値と改善方法をわかりやすく解説」、債務償還年数については「債務償還年数とは?計算式・目安・改善方法をわかりやすく解説」もあわせてご参照ください。流動比率については「流動比率の目安とは?業種別の適正値と計算方法をわかりやすく解説」で詳しく解説しています。

自己資本比率を高めることで銀行の見る目が変わる

自己資本比率は、一般的に30%以上で安定企業、50%以上で優良企業とされることが多い指標です。 ただし業種によって基準は異なり、IT・サービス業は高め、製造業・建設業は低めの傾向です。中小企業庁の「令和5年中小企業実態基本調査」では全業種平均が41.71%で、自社の数字と比較する参考値になります。自己資本を積み上げる軸は利益の内部留保であり、中長期的な収益改善とセットで取り組むのが定石です。

出典:中小企業庁「令和5年中小企業実態基本調査(令和4年度決算実績)速報」

収益性の改善——粗利率と営業利益率を上げる具体策

粗利率の改善は、売上増加よりも財務体質強化への近道として知られることが多い取り組みです。 一般的に、コスト構造の見直しや付加価値の向上によって粗利率を高めることは、営業利益率の改善に直結するとされています。営業利益の増加は年買法ののれん算出に直接連動するため、M&A取引価格にも影響します。具体的な手段として、仕入れコストの交渉・不採算商品の整理・価格政策の見直しが代表的です。

流動比率と債務償還年数——短期・中期の安全性指標

流動比率は120〜150%以上、債務償還年数は10年以内が、融資審査での一般的な目安とされることが多い指標です。 流動比率(流動資産÷流動負債×100)と債務償還年数(有利子負債÷キャッシュフロー)は、銀行が融資審査で必ず確認します。流動比率は短期借入金の圧縮と売掛金回収の迅速化、債務償還年数はCFの積み上げと借入残高の管理が改善の鍵です。業種や事業フェーズで幅がある点は念頭に置きましょう。

M&Aを見据えた企業価値の高め方——3年前から動く仕込みロードマップ

M&Aを見据えた3年前からの仕込みロードマップ(3年前・1〜2年前・直前のフェーズ別アクション一覧)

M&A成功のカギは、売りに出す瞬間ではなく2〜3年前の仕込みにあります。 買い手が評価するのは「今の利益」だけでなく、財務の透明性・経営の安定性・リスクの少なさです。早い段階から準備を進めることで、デューデリジェンスの通過率と売却価格の両方を高められます。

M&A想定3年前——BS整理と収益構造の見直し

フェーズ1では、貸借対照表(BS)の整理と収益構造の見直しを優先します。 具体的には、粗利率の改善・遊休資産の売却や整理・役員借入金の清算・株主構成の集約などが主なアクションです。とくに株主が分散している状態では、M&A実施時に全員の同意が必要になり、交渉が難航するリスクがあります。早い段階で株主整理を済ませておくことが、後の手続きを大きくスムーズにする布石です。

M&A想定1〜2年前——財務諸表の整備と収益の安定化

フェーズ2では、複数年にわたる営業利益の安定と、財務諸表を「見られる状態」に整えることが中心課題になります。 買い手が評価するのは単年度の利益ではなく、複数年の平均的な収益水準です。また、社長一人に依存した経営構造(属人性)はキーマンリスクとして評価額の引き下げ要因になるため、組織としての意思決定体制を整えておく必要があります。デューデリジェンスに備えた帳票整備も、この段階から着手しておきましょう。

M&A直前——企業価値評価の取得とFA選定

フェーズ3では、第三者による正式な企業価値評価の取得と、M&AアドバイザーまたはFA(ファイナンシャルアドバイザー)の選定を進めます。 自社による試算はあくまで準備段階の目安であり、正式な評価は専門家に依頼することが前提です。情報開示の準備を早めに整えておくと、買い手候補への提案がスムーズに運びます。売却前の財務・税務の整備は、交渉を有利に進めるための土台になります。

北薗 寛人カルロ
Encoach株式会社代表
北薗 寛人カルロ
M&Aは『売ると決めてから』動くと、磨き込む時間が足りずに買い叩かれがちです。属人化の解消や契約・労務の整備は効果が出るまでに2〜3年かかります。出口を具体的に決めていなくても、今のうちから企業価値が落ちない体制を整えておくことが、いざというときの選択肢を広げます。

収益性以外で企業価値を高める——無形資産・人的資本・ESGの視点

収益性以外で企業価値を高める3つの視点(無形資産・人的資本・ESG/ガバナンス)を示す図

企業価値を決めるのは、財務数値だけではないのです。 上場企業に求められる非財務情報の開示——サステナビリティ・人的資本・ガバナンス——の潮流は、中小企業の経営にも少しずつ波及しつつあります。東京証券取引所は2023年3月、プライム・スタンダード市場の全上場企業に対して「資本コストや株価を意識した経営」を要請しました(JPX)。2021年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂は、全上場企業に人的資本・知的財産への投資に関する情報開示を促すものでした。プライム市場では、気候変動に関する開示の充実も新たに求められています。

ブランド・知的財産・顧客基盤——目に見えない資産が評価を左右する

国際統合報告フレームワーク(IIRC)は、企業が活用する資本を財務資本、製造資本、知的資本、人的資本、社会・関係資本、自然資本の6つに分類し、非財務資本の重要性を示しました。 中小M&Aでも、ブランド力・顧客リスト・独自技術・仕入先との長期的な関係性といった無形資産が、有形資産を超えてM&A価格を左右するケースは珍しくありません。「この会社を買う理由」に直結するのは、数字に見えにくい強みです。

出典:日本取引所グループ「ESG Knowledge Hub 国際統合報告(<IR>)フレームワーク」

人的資本への投資——属人性排除と組織力強化

経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」(2022年)は、人的資本への投資が企業の持続的な価値向上につながるという考え方を提示しています。 中小企業においては、社長個人への依存度が高い組織構造がM&A時のリスク要因として評価額を下押しすることがあります。組織力の強化と属人性の排除を人的資本投資の一環として捉えると、日常の経営改善とM&A準備は自然と一体的な取り組みです。

出典:経済産業省「『人材版伊藤レポート2.0』を取りまとめました」

Encoachの財務・税務コンサルティングと経営者コーチングについて

Encoachでは、財務コンサル・税務コンサル・経営者コーチングの3本柱で、中小企業経営者の意思決定を支えています。財務面では自己資本比率の改善や収益構造の再設計を、税務面では自社株評価や事業承継・M&Aに備えた税務設計を担います。経営者コーチングは、経営判断の質を高めるための対話型支援です。「数字はわかるが、何から手をつければいいかわからない」という状況にある方こそ、早期のご相談が力になります。

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企業価値向上についてよくある質問

Q1. 企業価値はどのように計算しますか?中小企業が使える計算式はありますか?

A. 中小企業がよく使う簡易手法として、年買法(時価純資産+営業利益の1〜5年分・幅あり)とEV/EBITDA倍率法(EBITDA×業種・規模に応じた倍率)の2つがあります。ただしどちらも目安の試算であり、正式な算定は公認会計士・M&Aアドバイザーへの依頼が前提です。年数や倍率に唯一の正解はなく、当事者間の合意で決まる点にご注意ください。

Q2. 企業価値を高めるとどんなメリットがありますか?

A. 主なメリットは3点です。①銀行融資の条件改善(金利の低下・限度額の拡大)、②M&Aでの売却価格の最大化、③財務体質の強化による倒産リスクの低減。特に中小企業では、自己資本比率や収益性の改善が銀行評価に直結するため、日常的な財務改善が複数のメリットを同時に引き寄せる基盤です。

Q3. 企業価値向上のためにROICとはどのような指標ですか?

A. ROIC(投下資本利益率)は「税引後営業利益÷投下資本(有利子負債+株主資本)」で計算します。ROICがWACC(加重平均資本コスト)を上回ると企業価値は拡大し、下回ると毀損するという原則があります。中小企業ではROICとWACCを厳密に計算する環境が整っていないケースも多いため、まずROEを把握するところから始めるのが実践的な順序です。

出典:野村総合研究所「ROIC(投下資本利益率)用語解説」

Q4. M&Aを検討していますが、今の企業価値が低い場合はどうすればよいですか?

A. M&Aを見据えるなら、2〜3年前からの仕込みが成果に直結します。まず粗利率の改善・BS整理(遊休資産の処分・役員借入金の清算)・株主構成の集約から着手し、その後に財務諸表の整備と属人性の排除を進めます。「低い状態で売るより、1〜2年改善してから交渉する」という選択肢が、最終的な売却価格に大きな差を生む典型的なケースです。

Q5. 税理士から「自社株の評価額が高い」と言われましたが、M&Aの売却価格も高くなりますか?

A. 税務上の評価額とM&A取引価格は別物であり、評価額の高さがそのまま売却価格に直結するわけではありません。財産評価基本通達による評価は相続税・贈与税の課税目的のための画一的なルールです。一方、M&Aでの買収価格は収益力・将来性・リスクを総合した当事者合意で決まります。税務上の株価が高い=M&Aで高く売れる、と考えると判断を誤ります。

出典:国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」

まとめ:企業価値を高めてM&Aと財務改善を同時に前進させよう

企業価値を高める取り組みは、財務体質の改善・M&A準備・税務設計という3つの軸を連動させることで最大の効果を発揮します。税務上の自社株評価とM&A取引価格の違いを踏まえたうえで、年買法やEBITDA倍率法で自社の目線を持ち、3年前からの仕込みロードマップを歩み始めることが出発点です。財務・税務・経営の総合的な視点が必要な方は、まずはお気軽にご相談ください。

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