「会社の経常利益を伸ばしたいが、人件費はどのくらいが適正なのだろうか」「コストと捉えがちな人件費と利益の関係性が知りたい」そんなお悩みはありませんか。
この記事では、経常利益と人件費の基本的な関係性から、自社の状況を客観的に分析するための4つの重要指標、さらには利益を最大化するための5つの具体策までを専門家が分かりやすく解説します。
この記事を読めば、人件費を未来への投資として捉え、持続可能な利益体質を築くための具体的な方法がわかります。
経営者が知るべき経常利益と人件費の3つの基本

企業の健全な成長を目指す上で、利益とコストの関係を正しく理解することは不可欠です。
特に、会社の総合的な収益力を示す「経常利益」と、経営の根幹をなす「人件費」は、常にセットで考えなければならない重要な経営指標です。ここでは、これら2つの指標の基本的な関係性について、3つのポイントから解説します。
1. 経常利益とは?会社の「総合的な収益力」を示す最重要指標
経常利益とは、会社が毎年どれくらい安定して稼ぐ力があるかを示す「総合的な収益力」の指標です。
本業の儲けである「営業利益」に、本業以外で得た収益(営業外収益)と費用(営業外費用)を加減して算出します。
例えば、製造業の会社が、持っている不動産の家賃収入(営業外収益)を得たり、銀行への借入金の利息(営業外費用)を支払ったりした場合、それらを営業利益と合算したものが経常利益となります。
このように、経常利益は一時的な大きな利益や損失を含まないため、「会社の平常時における真の実力」を表す指標として、銀行の融資審査や投資家が企業価値を判断する際に特に重視されるのです。
2. 人件費は経常利益の計算に含まれる?損益計算書(P/L)の位置付けで解説
結論として、人件費は経常利益を計算するより手前の、「営業利益」を算出する段階で費用として計上されます。
会社の成績表である「損益計算書(P/L)」において、人件費は「販売費及び一般管理費(販管費)」に含まれるのが一般的です。
損益計算書での利益の計算プロセスは、以下のようになります。
- 売上総利益 = 売上高 – 売上原価
- 営業利益 = 売上総利益 – 販売費及び一般管理費(←ここに人件費が含まれる)
- 経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 – 営業外費用
つまり、人件費は本業の儲けである営業利益に直接影響し、その結果が経常利益の金額を左右するため、コントロールが非常に重要な費用項目といえます。
3.【図解】混同しやすい4つの利益との違い(売上総利益・営業利益・税引前当期純利益・当期純利益)
損益計算書には経常利益のほかにも複数の利益が登場し、それぞれ異なる意味を持ちます。これらの違いを正しく理解することで、自社の収益構造を多角的に分析できます。
| 利益の種類 | 計算式 | 何を示す利益か |
| 売上総利益 | 売上高 – 売上原価 | 商品やサービスの基本的な儲け(粗利) |
| 営業利益 | 売上総利益 – 販管費 | 本業での稼ぐ力 |
| 経常利益 | 営業利益 + 営業外収益 – 営業外費用 | 会社全体の総合的な収益力 |
| 税引前当期純利益 | 経常利益 + 特別利益 – 特別損失 | 税金を支払う前の、その期に発生した全ての事象を含んだ利益 |
| 当期純利益 | 税引前当期純利益 – 法人税等 | 最終的に会社に残る利益 |
例えば、長年使用してきた工場を売却して得た一時的な利益(特別利益)は、経常利益には含まれません。
経常利益は、このような一時的な損益を除いた「会社の継続的な実力」を測る上で最適な指標と言えるでしょう。
💬 ひとことポイント
利益は5人兄弟のようなもの!売上総利益(長男)、営業利益(次男)、経常利益(三男)、税引前利益(四男)、当期純利益(五男)。それぞれの役割を理解すれば、会社の成績がより深く読めるようになります。
自社の人件費は適正?経営状況を可視化する4つの重要指標

自社の人件費が本当に適正なのか、客観的に評価することが重要です。ここでは、経営状況を数字で見える化し、人件費の妥当性を判断するための4つの重要指標を紹介します。
1.【労働分配率】会社の付加価値に対して人件費は適正か?業種別の目安も紹介
労働分配率とは、会社が生み出した儲け(付加価値)のうち、どれだけを人件費として従業員に還元したかを示す割合です。この比率が高いほど、儲けの多くが人件費に充てられていることを意味します。
付加価値とは、おおむね売上総利益(売上高-売上原価)と捉えると分かりやすいでしょう。
計算式は「労働分配率(%) = 人件費 ÷ 付加価値 × 100」です。自社の労働分配率を業種別の平均値と比較することで、人件費配分の客観的な判断が可能になります。例えば、飲食サービス業は78.8%ですが製造業は54.5%と、業種で大きく水準が異なります(2022年度調査)。
出典:2022年企業活動基本調査確報-2021年度実績-|経済産業省
2.【売上高人件費率】売上に対して人件費をかけすぎていないか?
売上高人件費率とは、売上高に占める人件費の割合を示し、企業の生産性を測る指標の一つです。この比率が低いほど、少ない人件費で効率よく売上を上げている、つまり収益性が高いと判断できます。
計算式は「売上高人件費率(%) = 人件費 ÷ 売上高 × 100」となります。
ただし、この指標は業種による差が大きいため注意が必要です。例えば、中小企業庁「中小企業実態基本調査(令和5年確報・2022年度実績)」によると、情報通信業は19.3%であるのに対し、卸売業は5.9%と、ビジネスモデルの違いが大きく反映されています。自社の数値を評価する際は、こうした公的な業種別データを参考にすることが重要です。
出典:中小企業庁「中小企業実態基本調査(令和5年確報・2022年度実績)」
3.【一人当たり経常利益】従業員一人がどれだけ効率的に利益を生んでいるか?
一人当たり経常利益とは、従業員一人がどれだけの経常利益を生み出しているかを示す指標で、労働生産性を測るために用いられます。
計算式は「一人当たり経常利益 = 経常利益 ÷ 従業員数」です。
この数値が高いほど、従業員一人ひとりが効率的に利益創出に貢献していることを示します。この指標を時系列で比較することで、生産性向上のための施策が実際に利益に結びついているかどうかの効果測定にも活用可能です。企業の成長のためには、この指標を継続的に高めていく意識が重要です。
4.【売上高経常利益率】本業と本業以外を合わせた会社の収益性は高いか?
売上高経常利益率とは、売上高に対して経常利益がどれだけ残ったかを示す比率で、企業の総合的な収益性を判断する代表的な指標です。
計算式は「売上高経常利益率(%) = 経常利益 ÷ 売上高 × 100」となります。
本業の収益性のみを示す営業利益率に対し、この比率は財務活動なども含めた会社全体の収益力を評価できます。比率が高いほど、本業の収益力に加え財務活動もうまくいっている健全な経営状態であると判断できるでしょう。中小企業庁が2024年3月に公表した「令和5年中小企業実態基本調査速報」によると、2022年度の中小企業の売上高経常利益率は平均で4.29%となっています。
💬 ひとことポイント
これらの指標は単体で見るのではなく、複数組み合わせ、さらに業界平均や過去の自社データと比較することが肝心です。多角的な視点で自社の立ち位置を正確に把握しましょう。
経常利益を最大化する!人件費を最適化する5つの具体策

経常利益を最大化するには、人件費の最適化が不可欠です。しかし、人件費は未来への「投資」でもあります。従業員のやる気を維持しながら利益を出すための、具体的な5つのステップは以下の通りです。
- 【現状把握】自社の立ち位置を正確に知る
- 【生産性向上】ITツール導入などで無駄をなくす
- 【付加価値向上】商品・サービスの価値を高める
- 【人事評価制度】成果と報酬を連動させる
- 【採用・人員配置】戦略的な人材活用を行う
それぞれ詳しく解説します。
1.【現状把握】まずは自社の各種指標を正確に計算し立ち位置を知る
人件費最適化の第一歩は、自社の現状を客観的な数値で正確に把握することから始まります。
まずは「労働分配率」や「売上高人件費率」などの指標を計算し、業界平均と比較して自社の立ち位置を明確にしましょう。
これらの指標を計算することで、自社が売上や付加価値に対して人件費をかけ過ぎていないか、あるいは適正な範囲にあるのかを客観的に評価できます。この現状把握が、これから進めるべき施策の方向性を定めるための羅針盤となるのです。
2.【生産性向上】ITツール導入や業務フローの見直しで無駄をなくす
従業員一人ひとりの生産性を高めることは、実質的な人件費の最適化に直結します。少ない人数や時間でより多くの成果を生み出す体制を構築することが重要です。
ITツールの導入や業務フローの見直しによって、これまで時間を要していた定型業務や情報共有を効率化し、従業員がより付加価値の高い業務に集中できる環境を整えましょう。
例えば、クラウド型の業務管理システムやコミュニケーションツールを活用することで、書類作成の時間を大幅に削減したり、不要な会議を減らしたりできます。これにより残業時間も削減され、結果として人件費を抑制しながら利益を向上させることが可能です。
3.【付加価値向上】商品・サービスの単価や価値を高め利益の源泉を増やす
人件費を直接削減するのではなく、それを上回る利益を生み出すことも重要なアプローチです。そのためには、事業が生み出す「付加価値」そのものを高める必要があります。
競合他社との差別化を図り、商品・サービスの単価やブランド価値を高めることで、利益の源泉そのものを増やしましょう。
付加価値が高まれば、顧客に選ばれる理由が明確になり、価格競争から脱却して適正な価格設定が可能になります。新商品の開発や既存サービスの品質向上など、自社の強みを活かして付加価値を高める戦略を検討することが、持続的な利益成長につながります。
4.【人事評価制度】成果と報酬を連動させ従業員のモチベーションを高める
従業員の働きが適正に評価され、報酬に反映される仕組みは、生産性向上に不可欠です。公平で透明性の高い人事評価制度は、従業員のエンゲージメントを高めます。
企業の目標達成への貢献度に応じて報酬が決まる、成果と連動した人事評価制度を構築・運用しましょう。
「頑張れば報われる」という実感が得られることで、従業員は自律的に目標達成や自己成長への意欲を高めます。短期的な成果だけでなく、チームへの貢献度といったプロセスも評価に組み込むなど、多角的な視点を持つことが組織全体の健全な成長を促す上で重要です。
5.【採用・人員配置】事業計画に基づいた戦略的な人材活用を行う
事業の成長ステージや戦略に合わせて、必要な人材を確保し、適材適所に配置することは、人件費を「投資」として最大限に活かすための鍵となります。
場当たり的な増員ではなく、中長期的な事業計画に基づいた戦略的な要員計画を立て、採用や人員配置を行いましょう。
経営計画を達成するために、どの部署に、どのようなスキルを持つ人材が、何人必要なのかを明確にすることが重要です。従業員一人ひとりのスキルや適性を見極め、最も能力を発揮できる部署へ配置することで、組織全体のパフォーマンスを最大化し、無駄のない効率的な人員体制を構築できます。
💬 ひとことポイント
人件費の最適化は「削減」だけが答えではありません。「生産性向上」や「付加価値向上」といった攻めのアプローチと組み合わせることで、企業の成長と従業員の満足度を両立させましょう。
人件費や利益構造の改善に専門家の視点が必要ならEncoach株式会社へ

人件費の最適化や利益構造の改善は、多くの経営者が直面する根深い課題です。しかし、これらの問題は専門的な知識と客観的な視点を取り入れることで、解決への糸口が見つかります。
ここでは、多くの経営者がなぜ人件費の課題でつまずくのかを解説するとともに、解決策としてEncoach株式会社の財務コンサルティングサービスをご紹介します。
1. なぜ多くの経営者が人件費の課題でつまずくのか?
多くの経営者が人件費の課題でつまずくのは、短期的な視点でコスト削減を急ぎ、人件費を単なる「コスト」としてしか捉えられなくなるからです。
業績が悪化すると、財務諸表の中で大きな割合を占める人件費に真っ先に手をつけてしまいがちです。
しかし、この安易な削減は、従業員のモチベーション低下や優秀な人材の流出を招き、長期的には企業の競争力を削いでしまう危険性をはらんでいます。人件費の裏側には、従業員の生活や会社の未来を支える「人」がいるという視点が欠けてしまうことが、根本的なつまずきの原因です。
2. Encoach株式会社が提供する財務コンサルティングとは
Encoach株式会社では、財務の専門家が経営者に伴走し、利益体質な経営を実現するための財務コンサルティングを提供しています。
私たちは、単に数字を分析するだけでなく、経営者が自信を持って事業に集中できる「仕組み」と「環境」を整えることを重視しています。
事業計画書の策定から月次の予実管理、資金繰りのサポートまでを一貫して行い、会社の財務状態を可視化し、本質的な経営課題の解決を支援します。財務知識に自信がない方でも、質の高いPDCAサイクルを回せるようになり、未来への新たなチャレンジを後押しします。
3. まずは無料相談から!貴社の課題をヒアリングします
「自社の人件費は本当に適正なのか」「利益を出すために、何から手をつければいいかわからない」といったお悩みはありませんか。Encoach株式会社では、そのような経営者の皆様に向けて、無料の個別相談会を実施しています。
貴社の現状や課題を丁寧にヒアリングし、専門家の視点から解決の方向性をご提案します。この相談が、貴社の未来をより良くするための第一歩となるはずです。無理な勧誘は一切ありませんので、まずはお気軽にお問い合わせください。
💬 ひとことポイント
財務の課題は、社内の人間だけでは客観的な判断が難しいもの。信頼できる外部の専門家をパートナーにすることで、これまで見えなかった課題や新たな可能性が見えてきます。

経常利益と人件費に関するよくある4つの質問
ここでは、経常利益と人件費に関して、経営者や管理職の方からよく寄せられる質問にお答えします。基本的な疑問を解消し、より深く財務を理解するための一助となれば幸いです。
Q1. 営業利益が赤字で経常利益が黒字の場合、どう考えればいいですか?
A. 本業では損失が出ていますが、本業以外の収益(営業外収益)でその損失をカバーし、結果的に利益が出ている状態です。
本業の収益力に課題がある一方で、有価証券の売却益や受取配当金といった財務活動がうまくいっているケースが考えられます。ただし、一時的な営業外収益で黒字になっている可能性もあるため、本業の立て直しが急務と判断できます。なぜ営業赤字なのかを分析し、早急に対策を講じる必要があります。
Q2. 営業利益と経常利益、経営においてどちらがより重要ですか?
A. どちらも重要ですが、一般的には企業の「本業の稼ぐ力」を直接示す「営業利益」がより重視される傾向にあります。
本業が健全に成長しているかを見るには営業利益を、会社全体の総合的な収益力や財務活動を含めた実力を見るには経常利益を確認するのが適切です。会社の根幹である事業の収益性を評価できるため、金融機関の融資審査などでは特に営業利益が注目されます。
Q3. 役員報酬も損益計算書上では人件費として扱われますか?
A. 会計処理上、役員報酬は従業員の給与とは区別され、「役員報酬」という勘定科目で販売費及び一般管理費に計上されるのが一般的です。
広い意味では人件費の一部と捉えられますが、会計・税法上は従業員の給与(人件費)とは明確に異なる扱いを受けます。これは、役員と会社が雇用契約ではなく委任契約に基づいているためです。金融機関などが会社の財務を分析する際は、この役員報酬の額も重要なチェックポイントとなります。
Q4. 人件費を減らさずに経常利益を増やすことは可能ですか?
A. はい、可能です。人件費の削減は利益を増やすための一つの手段に過ぎず、安易な削減はかえって経営を悪化させるリスクがあります。
人件費を維持または増やしながら経常利益を増やすには、「売上を増やす」「人件費以外の経費を削減する」「生産性を向上させる」といったアプローチが有効です。具体的には、商品単価を上げる、ITツール導入で業務を効率化し残業代を減らす、付加価値の高い事業に人材を再配置するなどの方法が考えられます。
まとめ: 人件費はコストではなく未来への投資。正しく分析し、利益体質な経営を目指そう
本記事では、経常利益と人件費の関係性から、具体的な分析指標、そして利益を最大化するための最適化ステップまでを解説しました。
経常利益は会社の総合的な収益力を示す重要な指標であり、人件費はその利益を生み出すための源泉です。重要なのは、人件費を単なる「コスト」として捉えるのではなく、企業の未来を創るための「投資」と認識することです。
労働分配率や一人当たり経常利益といった客観的な指標を用いて自社の現状を正しく分析し、生産性向上や付加価値向上といった前向きなアプローチで人件費の最適化を図ることが、持続可能な利益体質の経営を実現する鍵となります。
