「後継者に会社を譲りたいが、経験不足で判断を誤らないか心配」「引退後も重要事項の決定権は持ちたい」。事業承継を控える経営者にとって、権限委譲とガバナンスのバランスは最大の悩みどころです。
黄金株(拒否権付種類株式)を活用すれば、株式の過半数を譲渡した後でも、経営の重要事項に対して「拒否権」を持てます。
この記事では、黄金株の仕組みやメリットだけでなく、認知症や相続トラブルを防ぐための「取得条項」を活用した高度な設計まで、専門的な視点で解説します。会社の未来を守る「伝家の宝刀」を正しく理解し、円滑な承継を実現しましょう。
まずは結論!黄金株と属人的株式(VIP株)の3つの違いと選び方

黄金株と同様に事業承継で活用される手法に「属人的株式(通称:VIP株)」がありますが、これらは法的な性質や効果が異なります。主な違いは以下の3点です。
- 拒否権を持つ「黄金株」と議決権を増やす「VIP株」の違い
- 登記が必要な「黄金株」と定款変更のみの「VIP株」
- 第三者への対抗力が強いのは「黄金株」
それぞれ解説していきます。
1. 拒否権を持つ「黄金株」と議決権を増やす「VIP株」の違い
黄金株(拒否権付種類株式)の最大の特徴は、株主総会の決議を覆せる「拒否権」を持っている点です。たった1株でも保有していれば、後継者が提案した取締役の選任やM&Aなどの重要事項に対し、「NO」を突きつけられます。あくまで「拒否する権利」であり、能動的に何かを決める権利ではありません。
一方で属人的株式(VIP株)は、特定の株主の「議決権の数」を増やす設計です。例えば「A社長の株式は、1株につき100個の議決権を有する」と定めます。これにより、株式数が少なくても議決権の過半数を維持し、実質的な支配権を握り続けることが可能です。
2. 登記が必要な「黄金株」と定款変更のみの「VIP株」
導入の手続きにおいて、両者には大きな違いがあります。黄金株を導入する場合、その内容は法務局で「登記」され、登記簿謄本(登記事項証明書)に記載されます。そのため、誰でも閲覧可能な公の情報となります。
対してVIP株(属人的株式)は、定款の変更のみで導入可能であり、登記簿には記載されません。社外に内容を知られずに導入できるため、金融機関や取引先に余計な懸念を与えにくいのが特徴です。
3. 第三者への対抗力が強いのは「黄金株」
黄金株は「株式そのもの」に特別な権利が付与されているため、その効力は強力です。もし黄金株が第三者に譲渡された場合でも、強力な拒否権は維持されます。そのため、敵対的買収への防衛策としても機能します。
一方、VIP株は「その人(属人)」に着目した権利です。VIP待遇を受けている株主が株式を第三者に譲渡した場合、譲受人はVIP待遇を受けられず、通常の「1株1議決権」に戻ります。M&A防衛策や第三者への対抗力という意味では、黄金株の方が優れています。
たった1株で会社を守る!黄金株によって拒否権を行使できる6つの重要事項

黄金株を1株保有するだけで、株主総会や取締役会で決議された事項に対し、拒否権を行使できます。具体的にコントロールできる主要な項目は以下の6つです。
- 取締役・代表取締役の選任および解任
- 役員報酬の決定に関する事項
- 合併や事業譲渡などのM&A関連事項
- 定款変更や新株発行などの組織再編
- 多額の借財や重要な資産の処分
- 配当金の決定などの財務事項
それぞれ解説していきます。
参照元URL https://www.ma-cp.com/about-ma/glossary/detail_30.html
https://ma-royal.com/column/basic/golden-shares/
1. 取締役・代表取締役の選任および解任
経営の根幹である「人」に関する決定権をコントロールできます。後継者が未熟なうちに、不適切な人物を取締役に選任しようとしたり、先代が信頼する役員を勝手に解任しようとしたりした場合、黄金株を行使してこれを阻止できます。
これにより、経営体制の急激な変化や組織の崩壊を未然に防ぐことが可能です。特に承継直後の不安定な時期において、人事権の暴走を抑える強力なブレーキとなります。
2. 役員報酬の決定に関する事項
後継者が自分や親族に対して、会社の財務状況を無視した高額な役員報酬を設定しようとした場合、これにストップをかけられます。
会社財産の不当な流出を防ぎ、健全な財務体質を維持するために重要な項目です。オーナー企業では「会社のお金」と「個人のお金」の境界が曖昧になりがちですが、黄金株によって最低限の規律を保つことができます。
3. 合併や事業譲渡などのM&A関連事項
会社の存続に関わるM&A(合併・買収)や事業譲渡についても、拒否権を設定できます。後継者が独断で会社を売却しようとしたり、相乗効果の薄い会社と合併しようとしたりするリスクを回避できます。
会社の支配権が意図せず第三者に渡るのを防ぐ、最後の砦となります。創業者が守り抜いてきた暖簾(のれん)を、安易な売却から守るために不可欠な権利です。
4. 定款変更や新株発行などの組織再編
会社の基本規則である「定款」の変更や、第三者への新株発行(増資)に対しても拒否権を持てます。特に新株発行は、既存株主の持株比率を低下させる恐れがあるため、創業家以外の株主の影響力が増すことを防ぐ意味でも重要です。
勝手にルールを変えられたり、外部資本を入れられて経営権を薄められたりする事態を防ぎ、創業家のコントロール権を維持するための基盤となります。
5. 多額の借財や重要な資産の処分
会社が多額の借金をして不動産を購入したり、逆に重要な工場や土地を売却したりする際にも、黄金株保有者の承認を必要とすることができます。「いくら以上の借入・処分」といった金額基準を設けるのが一般的です。
日常業務は後継者に任せつつ、財務的な致命傷になりかねない大きな判断のみを監視できます。会社の屋台骨を揺るがすような投資や資産売却を、経験豊富な先代がチェックする仕組みです。
6. 配当金の決定などの財務事項
株主への配当金の決定についても拒否権を行使できます。過大な配当による資金流出を防ぐだけでなく、逆に適切な配当を行わない場合に牽制するなど、資本政策の安定化を図るために活用されます。
後継者が利益を会社に残さず過度に配当したり、逆に株主還元を無視したりする極端な財務方針を正し、中長期的な視点での会社経営を促す効果があります。
事業承継で黄金株を導入する3つのメリット

黄金株は、特に中小企業の事業承継において強力なツールとなります。主なメリットは以下の3点です。
- 後継者の暴走や未熟な経営判断にブレーキをかけられる
- 敵対的買収(M&A)に対する強力な防衛策になる
- 経営権を段階的に移譲しながら創業者の影響力を残せる
それぞれ解説していきます。
参照元URL https://ma-s.jp/knowledge/6446/
1. 後継者の暴走や未熟な経営判断にブレーキをかけられる
黄金株の最大のメリットは、後継者の「暴走」を防げる点です。株式の過半数を後継者に譲渡して経営権を移した後でも、先代経営者が黄金株を持っている限り、会社を危険にさらすような決定を拒否できます。
後継者が経験を積み、一人前の経営者になるまでの「お守り」として機能します。失敗が許されない重要な局面で、先代が最終的な安全装置として存在することは、会社全体にとって大きな安心材料となります。
2. 敵対的買収(M&A)に対する強力な防衛策になる
黄金株は、敵対的買収に対する最強の防衛策(ポイズンピル)の一つです。もし買収者が市場で株式を買い集め、過半数の議決権を握ったとしても、黄金株を持つ株主が取締役の選任や合併を拒否すれば、買収者は経営のコントロールを奪えません。
実際に、国際石油開発帝石(INPEX)では、海外企業からの買収を防ぐために政府が黄金株を保有しています。たった1株で会社乗っ取りを防げる鉄壁の守りとなります。
3. 経営権を段階的に移譲しながら創業者の影響力を残せる
一気にすべての権限を渡すのではなく、「株式(財産)」は先に譲り、「重要事項の決定権(黄金株)」は手元に残すという段階的な承継が可能になります。
後継者の成長を見守りつつ、本当に危ない時だけ口を出せる仕組みを作れるため、先代・後継者双方にとって精神的な安定につながります。完全に引退する前の「並走期間」を設けることで、スムーズな世代交代を実現できます。
導入前に知っておくべき黄金株の4つのデメリットとリスク

強力な権限を持つ反面、黄金株には無視できないリスクやデメリットも存在します。導入前に以下の4点を確認しておきましょう。
- 黄金株自体が相続されると経営が混乱するリスク
- 拒否権の乱用により迅速な経営判断が阻害される
- 登記簿に記載されるため対外的な信用に影響する可能性
- 事業承継税制の適用対象外になるケースがある
それぞれ解説していきます。
参照元URL https://www.youtube.com/watch?v=kYJvLddrQ6g
https://ma-royal.com/column/basic/golden-shares/
1. 黄金株自体が相続されると経営が混乱するリスク
最も注意すべきは、黄金株を持っていた先代経営者が亡くなった後の相続です。もし遺言などがなく、経営に関与させたくない親族や、会社と敵対的な人物に黄金株が相続されてしまうと、その人物が強力な拒否権を持つことになります。
これにより、後継者が何も決められず、会社経営が麻痺してしまうリスクがあります。強力な武器が悪意ある第三者の手に渡るのと同じであり、最悪のケースでは会社が立ち行かなくなります。
2. 拒否権の乱用により迅速な経営判断が阻害される
先代経営者が頻繁に拒否権を行使すると、「結局、親父が全部決めるんじゃないか」と後継者のやる気を削ぐ原因になります。
また、いちいち黄金株主(種類株主総会)の承認を得る必要があるため、迅速な意思決定が求められる現代のビジネススピードにおいて、経営の足かせになる恐れがあります。あくまで「非常時のブレーキ」であるべきものが、日常的な障害物になってはいけません。
3. 登記簿に記載されるため対外的な信用に影響する可能性
黄金株の内容は登記簿に記載され、誰でも閲覧できます。これにより、「この会社はまだ先代が支配しており、現社長には決定権がない」「親子関係がうまくいっていないのではないか」と外部から推測されかねません。
金融機関や取引先からの信用に影響を与える可能性があります。事業承継が完了しているのか疑念を持たれないよう、対外的にしっかりとした説明が求められます。
4. 事業承継税制の適用対象外になるケースがある
黄金株の保有状況によっては、事業承継税制の特例措置が受けられない可能性があります。事業承継税制は「後継者が経営権を握っていること」が前提となるため、先代が強力すぎる権限を持ち続けていると、要件を満たさないと判断されるリスクがあります。
税制優遇を受けられないと、多額の贈与税や相続税が発生する恐れがあります。導入の際は、必ず税理士などの専門家に確認が必要です。
【プロの視点】「取得条項付」にしないと危険?認知症・相続トラブルを防ぐ2つの高度な設計

黄金株を導入する際、単に拒否権をつけるだけでは不十分です。「取得条項(Call Option)」を組み合わせることで、以下の2つのリスクを劇的に下げることができます。
- 認知症対策:会社が強制的に買い取る「取得条項」の活用
- 相続対策:後継者以外への流出を防ぐ遺言と売渡請求
それぞれ解説していきます。
参照元URL https://www.youtube.com/watch?v=J_jKjTUDJgU
https://www.youtube.com/watch?v=4T1FjWClX_w
1. 認知症対策:会社が強制的に買い取る「取得条項」の活用
黄金株を持つ先代経営者が認知症になり、判断能力を失うと大変なことになります。成年後見人がついた場合、経営判断のたびに後見人の許可が必要になり、実質的に経営がストップしてしまうからです。
これを防ぐために、「株主が後見開始の審判を受けた場合、会社が強制的にその株式を買い取る」という「取得条項」を定款に定めておきます。これにより、先代が認知症になった瞬間に黄金株は会社に回収され、拒否権は消滅するため、後継者はスムーズに経営を継続できます。
2. 相続対策:後継者以外への流出を防ぐ遺言と売渡請求
黄金株が意図しない人物に渡らないよう、「黄金株は後継者に相続させる」という遺言書(公正証書遺言)を作成しておくことが基本です。
さらに安全策として、「株主が死亡した場合、会社がその株式を買い取ることができる」という条項(売渡請求や取得条項)を入れておくことも有効です。万が一遺言が無効だったり、遺留分減殺請求などで揉めたりした場合でも、会社が黄金株を回収して無効化することが可能になります。
最短で導入!黄金株(拒否権付種類株式)を発行する4つのステップ

黄金株の発行には、会社法に基づいた厳格な手続きが必要です。既存の株式を変更する場合の一般的な流れは以下の4ステップです。
- 株主総会の特別決議による定款変更
- 対象株主との合意書作成および同意の取得
- 法務局への種類株式の変更登記申請
- 発行後の運用ルールの策定
それぞれ解説していきます。
参照元URL https://www.ma-cp.com/about-ma/glossary/detail_30.html
1. 株主総会の特別決議による定款変更
まず、株主総会を招集し、定款を変更して「拒否権付種類株式(黄金株)」の内容を追加する決議を行います。
これには議決権の3分の2以上の賛成が必要な「特別決議」が求められます。会社にとって非常に重要な変更であるため、普通決議(過半数)よりも厳しい要件が課されています。
2. 対象株主との合意書作成および同意の取得
次に、現在発行されている普通株式の一部を黄金株に変更するために、対象となる株主(先代経営者など)と会社の間で合意書を作成します。
また、ある株主の株式だけ種類を変えることは他の株主にも影響するため、原則として株主全員の同意書が必要になります。少数株主がいる場合は、事前の根回しや丁寧な説明が不可欠です。
3. 法務局への種類株式の変更登記申請
手続きが完了したら、法務局へ変更登記を申請します。「黄金株の内容」「発行可能株式総数」「種類ごとの発行済株式数」などを登記簿に反映させます。
この登記が完了して初めて、第三者に対しても効力を持つことになります。社内手続きだけで終わらせず、確実に公的な手続きを行う必要があります。
4. 発行後の運用ルールの策定
発行して終わりではありません。「どのような場合に拒否権を行使するのか」「いつまで黄金株を維持するのか(消滅時期)」といった運用ルールを明確にしておくことが重要です。
特に、黄金株には必ず「譲渡制限」を付し、会社の承認なしに勝手に売買できないようにしておくことが必須です。設計図だけでなく、使い方のマニュアルもセットで用意しましょう。
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黄金株・種類株式に関するよくある質問
この章では、黄金株に関してよくある質問とその答えをご紹介します。
Q1. 黄金株の相続税評価額は高くなりますか?
基本的には普通株式と同じ評価額となります。黄金株は強力な権限を持ちますが、国税庁の通達では拒否権の有無を考慮せずに評価するとされており、原則として相続税評価額が高くなることはありません。
ただし、配当優先権など経済的な価値が異なる設計にした場合は、評価が変わる可能性があるため注意が必要です。
Q2. 黄金株は上場企業でも導入できますか?
原則として難しいですが、例外的に認められているケースがあります。東京証券取引所は「株主平等の原則」を重視しており、上場企業の黄金株導入には消極的です。
しかし、国策に関わる企業などでは例外があり、国際石油開発帝石(INPEX)は、日本政府が保有する黄金株を発行している唯一の上場企業です。
Q3. 後継者が成長した後、黄金株を消滅させることは可能ですか?
可能です。定款変更と株主総会の決議によって黄金株を廃止・回収することができます。
また、あらかじめ「発行から10年経過したら普通株に転換する」といった条件を定款に定めておくことで、自動的に消滅させることも可能です。期間限定の権利とすることで、後継者の自立を促せます。
Q4. 黄金株を持っていると銀行融資に影響しますか?
直接的なマイナス評価にはなりにくいですが、懸念される可能性はあります。黄金株は登記簿に記載されるため、金融機関は「先代の影響力が強く、現経営者の決定権が弱い」と判断する材料にする可能性があります。
事業承継が完了しているのかどうか、疑念を持たれないよう丁寧な説明が必要です。
まとめ:黄金株は「伝家の宝刀」。取得条項とセットで設計し、円滑な事業承継を実現しよう
黄金株(拒否権付種類株式)は、たった1株で会社の重要事項をコントロールできる強力なツールです。後継者の暴走を防ぎ、敵対的買収から会社を守る「盾」として機能します。
しかし、その強力さゆえに、設計を誤ると「認知症リスク」や「相続トラブル」によって、逆に会社の首を絞めることになりかねません。
導入する際は、必ず「取得条項」をセットで検討し、万が一の際には会社が黄金株を回収できる仕組みを整えておくことが、プロが推奨する安全な運用法です。専門家の知見を借りながら、あなたの会社に最適な事業承継プランを設計してください。
