「毎月の家賃、これを会社の経費にできればどれだけ資金繰りが楽になるだろう」
1人社長として会社を経営していると、自宅の家賃や光熱費の負担の重さに悩むことはありませんか。実は、正しい知識と手続きを踏めば、自宅家賃の大部分を経費にすることは十分に可能です。
この記事では、1人社長が自宅を賢く「社宅化」して手取りを最大化する方法や、税務調査で否認されないための鉄則を解説します。合法的に税金を抑え、会社の利益を個人の資産として守るための具体的なロードマップを手に入れてください。
結論!1人社長の自宅経費はこう変わる【個人事業主との比較】

1人社長(法人)と個人事業主では、自宅を経費にする際のルールや節税効果が劇的に異なります。その最も大きな違いは、「社宅制度」が使えるかどうかです。
個人事業主の場合、「事業に使っている部分(面積や時間)」しか経費にできませんが、法人の場合は「会社が借り上げて社長に貸す」形式をとることで、プライベート空間を含めた家賃の多くを経費化できる可能性があります。まずは以下の表で、その決定的な差を確認しましょう。
| 項目 | 個人事業主(自宅兼事務所) | 1人社長(役員社宅) |
| 経費計上の考え方 | 家事按分(事業使用割合のみ) | 社宅制度(法人契約して貸与) |
| 経費にできる範囲 | 事業スペースのみ(例:30%) | 家賃の50%〜90%程度が可能 |
| 契約名義 | 個人名義 | 法人名義 |
| 節税効果 | 限定的 | 非常に大きい |
個人事業主の「家事按分」は、税務署に対して「ここは仕事場、ここは寝室」と厳密に説明する必要があります。一方、法人の「社宅扱い」であれば、家賃の半分以上、場合によっては8〜9割を経費として計上することも可能になり、会社と個人双方の税負担を大きく減らせます。
※出典:国税庁 No.2210 必要経費の知識
※出典:国税庁 No.2600 役員に社宅などを貸したとき
1人社長が自宅家賃を経費にするための3つの鉄則

1人社長が自宅家賃を経費にするには、単に領収書を保存するだけでは不十分です。税務調査で否認されないためには、「法人と個人の契約関係」を明確にすることが何より重要です。
持ち家の場合と賃貸の場合ではアプローチが全く異なります。自分自身の状況に合わせて適切な法的手続きを踏まないと、後から「認定賞与」として課税されるリスクがあります。ここでは、絶対に外せない3つのルールを解説します。
- 【持ち家の場合】法人へ売却 or 賃貸する
- 【賃貸の場合】法人契約へ切り替える
- 合理的な「事業利用割合」を計算する
それぞれ詳しく解説します。
1.【持ち家の場合】法人へ売却 or 賃貸する
持ち家を経費化する方法は大きく分けて2つあります。
- 自宅を法人へ売却する
建物が法人の所有物になれば、減価償却費や固定資産税、修繕費などをすべて法人の経費にできます。ただし、移転登記費用や不動産取得税などのコストがかかる点に注意が必要です。 - 自宅を法人へ賃貸する
社長個人と法人で賃貸借契約を結び、法人が事務所として使用します。法人は近隣相場や使用面積に応じた賃料を経費にできますが、社長個人には「不動産所得」が発生するため、個人の確定申告が必要になります。
※出典:国税庁 No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
2.【賃貸の場合】法人契約へ切り替える
賃貸マンション等に住んでいる場合は、契約の名義を「個人」から「法人」へ切り替えること(社宅化)が鉄則です。これを「借り上げ社宅」と呼びます。
法人が大家さんと契約して家賃全額を支払い、社長個人から「一定の賃料(賃貸料相当額)」を徴収します。これにより、法人が支払う家賃と、社長から受け取る賃料の差額(一般的に家賃の50〜80%程度)がそのまま法人の経費となります。
大家さんや管理会社によっては法人契約への変更や社宅利用を断られるケースもあるため、事前の確認が不可欠です。
3. 合理的な「事業利用割合」を計算する(家事按分)
社宅制度を使わず、自宅兼事務所として「家事按分」で経費にする場合や、水道光熱費を経費にする場合は、「事業利用割合」の根拠が必要です。
「なんとなく50%」といった決め方は税務調査で通用しません。「床面積の30%を執務スペースにしている」「1週間のうち40時間を業務に使用している」など、客観的に説明できる数値をもとに計算してください。
特にWeb系やコンサル業など在庫を持たない業種の場合、プライベートとの区切りが曖昧になりがちなので、見取り図や使用記録を残しておくのがベストです。
家賃だけじゃない!自宅で経費にできる7つの費用

自宅を拠点にビジネスをする際、経費にできるのは家賃だけではありません。事業活動に関連する支出であれば、生活費の一部も経費として計上できる可能性があります。
ただし、すべてを経費にできるわけではなく、あくまで「事業に使った分だけ」が対象です。見落としがちですが、積み重なると大きな節税効果を生む費用について、経費化のポイントを解説します。主に以下の7つが挙げられます。
- 水道光熱費
- 通信費(インターネット・電話代)
- 消耗品費
- 固定資産税
- 住宅ローンの利息
- 火災保険料・地震保険料
- 駐車場代
ひとつずつポイントを解説します。
※出典:国税庁 家事関連費(第1号関係)
1. 水道光熱費
電気代、ガス代、水道代も、業務に必要な範囲であれば経費になります。特にPC作業が多いIT業や、自宅でサロンを開く場合などは電気代の比率が高くなるでしょう。
重要なのは按分(あんぶん)の基準です。電気代はコンセントの数や使用時間、水道代はトイレや給湯の使用頻度などで計算するのが一般的です。ただし、家族とお風呂や料理で使う分は事業と無関係なため、全額計上はできません。合理的に説明できる20〜30%程度に設定するのが無難です。
2. 通信費(インターネット・電話代)
インターネット回線やプロバイダ料金、スマホ代は、現代のビジネスに不可欠なコストです。
仕事専用の回線やスマホであれば全額経費にできます。プライベートと兼用の場合は、使用時間や日数で按分しましょう。例えば「平日の日中は仕事で使うため5/7を経費にする」といった計算も可能です。Wi-Fiルーターなどの機器購入費も対象になります。
3. 消耗品費
自宅で使用するコピー用紙、インク、文房具、仕事用のデスクや椅子などは「消耗品費」として経費になります。
1つあたりの金額が10万円未満(青色申告の場合は30万円未満の特例あり)であれば、購入した年に一括で経費計上が可能です。トイレットペーパーや洗剤なども、来客用トイレや事務所スペースの清掃に使う分であれば経費として認められます。
4. 固定資産税
持ち家を事業に使用している場合、土地や建物の固定資産税を経費にできます。
これも家事按分の対象となり、事業用スペースの床面積割合(例:総床面積の30%)に応じて計算します。賃貸の場合は大家さんが支払うものなので関係ありませんが、持ち家の1人社長にとっては大きな節税ポイントです。
5. 住宅ローンの利息
持ち家の場合、住宅ローンの返済額そのものは経費になりませんが、「利息部分」のみ経費計上が可能です。
元本部分は「借金の返済」であり費用ではないためです。返済予定表を確認し、年間の支払利息のうち、事業使用割合に応じた金額を経費に入れます。ただし、事業割合を50%以上に設定すると「住宅ローン控除」が受けられなくなる場合があるため、バランスには十分注意してください。
6. 火災保険料・地震保険料
自宅にかけている火災保険や地震保険の保険料も、事業利用分を経費にできます。
長期契約で一括払いしている場合は、その年の分だけを計算して計上します(期間対応)。これらも固定資産税と同様、床面積の割合で按分するのが一般的です。事務所としての機能を守るためのコストなので、忘れずに計上しましょう。
7. 駐車場代
社用車を使用している場合、自宅の駐車場代も経費になります。
賃貸で駐車場代が家賃に含まれている場合は家賃と一緒に処理しますが、別契約の場合は駐車場代として計上します。持ち家の敷地内であれば費用は発生しませんが、月極駐車場を借りているなら全額経費にできる可能性が高いです。事業専用車でない場合は、走行距離などで按分する必要があります。
税務調査で絶対否認されないための4つの注意点

節税効果が高いからこそ、自宅関連の経費は税務調査で厳しくチェックされるポイントでもあります。「実態がない」「私的流用だ」と判断されると、追徴課税などのペナルティを受ける恐れがあります。
しかし、正しい手続きと証拠さえ残しておけば恐れることはありません。調査官が見るのは「客観的な事実」と「記録」です。ここでは、調査官に指摘されないための防御策として、以下の4つを徹底してください。
- 契約書・議事録を必ず整備する
- 家賃の相場からかけ離れない
- 社長個人への家賃支払いを忘れない
- プライベートな支出と明確に区別する
それぞれの詳細を確認しましょう。
1. 契約書・議事録を必ず整備する
口約束や曖昧な処理は絶対にNGです。法人契約の賃貸であれば「賃貸借契約書」の名義が法人になっているか確認しましょう。
役員社宅として運用する場合や、持ち家を法人に貸す場合は、「社宅管理規定」や「株主総会議事録」を作成し、決定事項を書面に残す必要があります。「いつ、誰が、どのような条件で決定したか」という証拠書類が、税務調査時の最強の盾になります。
2. 家賃の相場からかけ離れない
法人から社長個人に家賃を払う場合(持ち家を貸すケース)、その金額は「近隣の家賃相場」とかけ離れてはいけません。
相場が10万円のエリアで、会社から社長へ30万円の家賃を払っていれば、差額の20万円は「実質的な役員賞与」とみなされ、損金算入を否認されるリスクがあります。不動産サイトなどで近隣の類似物件の賃料を調べ、プリントアウトして保管しておくと良いでしょう。
3. 社長個人への家賃支払いを忘れない
社宅制度(借り上げ社宅)を利用する場合、社長は会社に対して、毎月「賃貸料相当額(家賃の10〜50%程度)」を必ず支払わなければなりません。
会社が家賃を全額負担してしまうと、本来社長が負担すべき分まで会社が払ったことになり、その分が「現物給与」として社長個人の所得税課税対象になります。給与から天引きするか、毎月会社口座へ振り込む運用を徹底してください。
4. プライベートな支出と明確に区別する
「法人の経費」と「個人の生活費」の境界線は明確に引きましょう。
例えば、家族全員分の食費を「会議費」にしたり、子供のゲーム機代を「消耗品費」にするのは脱税行為です。水道光熱費や通信費も、事業に使った分だけを合理的に按分すべきです。「事業に関係がある支出である」と第三者に説明できないものは、経費に入れない勇気を持つことが会社を守ることにつながります。
自宅経費の最大化で終わらない!攻めの節税戦略5選

自宅の経費化は守りの節税ですが、1人社長にはさらに「お金を残す」ための攻めの節税手段がいくつも存在します。利益が出ているなら、ただ税金を払うのではなく、将来の退職金や不測の事態への備えとして資金をプールしておくべきです。
これらは単なる節税だけでなく、会社と個人の資産形成を加速させる強力なツールとなります。ここでは、自宅経費とあわせて実施したい、効果の高い5つの節税戦略を紹介します。
- 役員報酬の最適化
- 出張旅費規程の活用
- 生命保険の活用
- 経営セーフティ共済(倒産防止共済)への加入
- 小規模企業共済への加入
順に見ていきましょう。
1. 役員報酬の最適化
役員報酬は高すぎても低すぎても損をします。報酬を上げれば個人の所得税・住民税・社会保険料が跳ね上がり、下げすぎれば会社の法人税負担が増えます。
会社と個人の税金・社会保険料の合計が最小になる「最適ポイント」をシミュレーションして設定しましょう。また、社宅制度を活用して手取りを増やせば、額面の役員報酬を抑えて社会保険料を削減することも可能です。
2. 出張旅費規程の活用
「出張旅費規程」を作成すれば、出張のたびに一定額の「出張手当(日当)」を経費として支給できます。
この手当は、会社側は消費税込みの経費として計上でき、受け取る社長個人は非課税(所得税がかからない)という大きなメリットがあります。宿泊費や交通費の実費だけでなく、日当を設定することで、出張の手間を正当に節税につなげられます。
3. 生命保険の活用
かつてのような「全額損金」の保険商品は減りましたが、依然として法人保険は有効な手段です。
事業保障や退職金の積み立てを目的とした保険であれば、支払う保険料の一部を経費にしつつ、将来の解約返戻金を会社の資金として活用できます。ただし、解約のタイミングや返戻率を慎重に見極めないと損をするリスクもあるため、専門家のアドバイスが必須です。
4. 経営セーフティ共済(倒産防止共済)への加入
国が運営する「経営セーフティ共済」は、掛金を全額経費(月額最大20万円、総額800万円まで)にできる強力な制度です。
本来は取引先の倒産に備える制度ですが、40ヶ月以上納付すれば解約時に掛金が100%戻ってくるため、実質的な利益の繰り延べ(貯金)として使えます。突発的な赤字が出た年に解約して利益を補填するなど、資金繰りの調整弁として非常に優秀です。
5. 小規模企業共済への加入
こちらは「経営者の退職金制度」です。掛金(月額最大7万円)は、法人の経費ではなく社長個人の所得控除になります。
個人の課税所得を直接減らせるため、所得税・住民税の節税効果が絶大です。将来受け取る際も「退職所得」扱いとなり税制優遇が受けられるため、1人社長ならiDeCoとあわせて真っ先に検討すべき制度と言えます。
※出典:中小機構 経営セーフティ共済
※出典:中小機構 小規模企業共済
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1人社長の節税や経費対策は、個人の状況によって正解が異なります。「自分の場合はいくら経費にできるのか?」「もっと手残りを増やす方法はないか?」とお悩みの方は、ぜひ専門家の視点を取り入れてください。
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1人社長の自宅経費に関するよくある5つの質問
最後に、自宅の経費化について多くの1人社長が疑問に思うポイントをQ&A形式でまとめました。知っているだけでトラブルを防げる知識ばかりですので、実行前に必ずチェックしておきましょう。
Q1. 妻名義の持ち家でも社宅にできますか?
可能です。ただし、会社と奥様との間で賃貸借契約を結び、適正な家賃を支払う必要があります。この場合、奥様に家賃収入(不動産所得)が発生するため、金額によっては奥様の扶養が外れたり、確定申告が必要になったりする点に注意してください。
Q2. 経費の計算で間違いやすいポイントは?
最も多い間違いは「住宅ローンの元本」を経費に入れてしまうことです。経費になるのは「利息部分」のみです。また、借り上げ社宅の場合、社長個人が負担すべき「賃貸料相当額」の計算は複雑(固定資産税評価額などを使用)なため、簡易的に「家賃の50%」とするケースも多いですが、正確に計算した方が個人の負担額を下げられる場合があります。
Q3. 法人カードで支払うメリットはありますか?
大きなメリットがあります。法人カードで支払うことで「事業用支出」であることが明確になり、証拠能力が高まります。また、経理処理の手間が省け、会計ソフトとの連携もスムーズになります。ポイントも貯まるため、現金や個人カードで払うよりもお得です。
Q4. 途中で引っ越した場合の手続きはどうなりますか?
引っ越し先の物件で改めて「法人名義での契約」を結ぶ必要があります。また、本店所在地を自宅に登記している場合は、法務局での「本店移転登記」が必要です。これには登録免許税(3万円〜)や手続きの手間がかかるため、頻繁に引っ越す可能性がある場合は、バーチャルオフィス等を本店所在地にするのも一つの手です。
Q5. 税理士に相談するベストなタイミングはいつですか?
「契約する前」または「会社設立前」がベストです。賃貸契約を一度個人で結んでから法人に変更するのは、手数料や大家さんの許可などハードルが高くなります。最初から「法人契約が可能か」「社宅として使えるか」を専門家と相談しながら物件探しや設立準備を進めるのが、最もスムーズで無駄がありません。
※出典:国税庁 No.2600 役員に社宅などを貸したとき(計算方法など)
まとめ:自宅経費を制する者が、1人社長の経営を制する
1人社長にとって、自宅に関する費用は最大の固定費であり、同時に最大の節税チャンスでもあります。
個人事業主の「家事按分」から法人の「社宅制度」へ切り替えるだけで、年間数十万円〜数百万円単位で手元に残るお金が変わることも珍しくありません。
重要なポイントをおさらいしましょう。
- 社宅制度を活用する(法人契約・賃料徴収)
- 契約書や規定などの「証拠」を整備する
- 家賃以外の生活費も合理的に経費化する
- 役員報酬や共済と組み合わせてトータルで節税する
「面倒だから」と後回しにせず、今の家賃や光熱費が経費にならないか、一度見直してみてください。その小さな見直しが、会社の財務体質を強くし、あなたの事業を長く支える基盤となるはずです。
