決算書を見て「利益剰余金がマイナスになっている」ことに気づき、銀行融資への悪影響や倒産のリスクを心配されている経営者の方は少なくありません。この数字は会社の健康状態を示す重要なバロメーターであり、放置するのは危険です。
この記事では、税務・財務のプロフェッショナルが、利益剰余金がマイナスになる本当の意味や、債務超過との違い、銀行員が見ている審査のポイントについて分かりやすく解説します。
これを読めば、マイナスを解消するための具体的な手順と、銀行評価の高い強い財務体質を作る方法が分かります。 まずは現状を正しく理解し、改善への一歩を踏み出しましょう。
まずは結論!利益剰余金のマイナスは即倒産ではないが「融資・信用の危険信号」

利益剰余金のマイナスは即倒産を意味するわけではありません。倒産は赤字の有無にかかわらず、手元の現預金が尽きて支払いができなくなった時に起こります。
しかし、マイナスの状態は過去の赤字が積み上がり、資本金を食いつぶし始めている「危険信号」であることは間違いありません。人間で言えば基礎体力が落ちている状態で、ちょっとした環境変化で資金ショートを起こすリスクが高まっていると認識すべきです。
そもそも「利益剰余金がマイナス」とはどのような状態か

決算書の「純資産の部」に見慣れないマイナス表記があるとギョッとするものです。この数字が表す本当の意味を見ていきましょう。
利益剰余金の正体:会社設立から現在までの「稼ぎ」と「税引後利益」の積み上げ
利益剰余金とは、会社が創業から現在に至るまでに稼ぎ出した利益の「蓄積」 です。毎年の決算で出た黒字から、法人税等を払い、株主へ配当などをした「残り(内部留保)」がここに積み上がります。つまり、単年度の成績ではなく、会社の歴史そのものであり、経営者の長期的な通信簿とも言える数字です。この数字がプラスであれば、過去の経営が順調で利益を再投資に回せる体力があることを示しています。
「内部留保=現金」ではない?マイナスでも現金があるケース、黒字でも現金がないケース
よくある誤解ですが、利益剰余金の額と銀行口座の現金残高は一致しません。稼いだ利益は設備投資や仕入れに使われ、機械や在庫という「形」に変わっている ことが多いからです。そのため、利益剰余金がプラスでも現金がない「黒字倒産」のリスクもあれば、逆に借入金で現金を持っていて利益剰余金はマイナス、というケースも存在します。あくまで会計上の計算結果であり、現金の有り無しとは別問題と捉えてください。
マイナスになる主な原因:恒常的な赤字、過剰配当、創業期の先行投資
最も一般的な原因は「赤字経営」です。単年度の赤字が出ると、その分だけ利益剰余金が減少し、過去の蓄積以上に赤字を出せばマイナス表示 になります。また、稀なケースですが、稼いだ利益以上に株主への配当を行いすぎた場合にも減少します。例外として、創業期や大型投資を行った直後は一時的にマイナスになることもありますが、基本的には「稼ぎ」よりも「失った金額」の方が多い状態と言えます。
利益剰余金のマイナスには「2つの危険レベル」がある

一口に「マイナス」と言っても、その深刻度には段階があります。利益剰余金のマイナスには、以下の2つの危険レベルがあります。
1. 資本欠損(純資産はプラスだが、元手である資本金を食いつぶしている)
2. 債務超過(純資産そのものがマイナスで、資産を売っても負債を返せない)
それぞれ解説していきます。
1. 資本欠損(純資産はプラスだが、元手である資本金を食いつぶしている)
利益剰余金がマイナスでも、株主が出資した「資本金」の額がそれより大きければ、純資産の合計はプラスを維持できます。これを「資本欠損」と呼びます。元手を食いつぶしている状態 ですが、まだ資産の方が負債より多い(資産>負債)ため、即座に致命的な状態ではありません。ただし、このまま赤字が続けば次の危険なステージへ移行してしまうため、早期の黒字化による止血が求められる段階です。
2. 債務超過(純資産そのものがマイナスで、資産を売っても負債を返せない)
赤字が膨らみ、利益剰余金のマイナスが資本金の額を超えてしまうと、純資産全体がマイナスになります。これが「債務超過」です。資産をすべて売り払っても借金を返せない状態 を意味し、銀行からの信用は地に落ちます。事実上の倒産状態とも言われ、新規の融資を受けることは極めて困難になります。一刻も早い経営再建が必要な、待ったなしの危険な状態です。
なぜ赤字が続くと債務超過に転落するのか?
毎期の赤字は、まず利益剰余金を削り取ります。貯金(過去の利益)が底をつくと、次は資本金(元手)を侵食し始めます。
赤字が止まらない限り、自己資本は減り続け、最終的にマイナス圏へと転落します。債務超過の原因は借金の多さだと思われがちですが、根本原因は「赤字による資産の目減り」です。出血を止めない限り、会社は確実に財務体質を悪化させていくのです。
経営者が最も気にする「銀行融資」への影響と審査のリアルな視点

資金繰りにおいて銀行との付き合いは生命線です。マイナス決算が銀行員の目にどう映るのか、リアルな審査視点をお伝えします。
銀行員は「実態バランスシート」で実質的な資産を見抜く
銀行員は、利益剰余金を「創業からの粉飾の蓄積」と疑って見ることがあります。決算書上はプラスでも、不良在庫や回収不能な売掛金が含まれていれば、それらを差し引いて実態を評価 します。
逆に、マイナスであっても、役員借入金を資本とみなせる場合などは評価が好転することもあります。銀行は表面的な数字ではなく、実質的な資産内容(実態バランスシート)を見て判断していることを忘れてはいけません。
マイナスでも即融資不可ではないが「2期連続」や「債務超過」は厳しい
利益剰余金がマイナスであることは、銀行の格付け評価を大きく下げる要因になります。しかし、即座に融資がストップするわけではありません。例えば、直近で黒字転換していたり、しっかりとした経営改善計画があれば、融資を受けられる可能性は残っています。 ただし、2期連続の赤字や債務超過の状態になると、銀行内の格付けが「要注意先」以下となり、融資のハードルは格段に上がります。
安全圏の目安は「年商の2割」
銀行から安定して融資を受け、強い財務体質を作るための目安として、利益剰余金と資本金の合計(自己資本)が「年商の2割」程度あると理想的 です。
これだけの厚みがあれば、突発的な不況で売上の1割程度の赤字が出ても、債務超過に転落せず耐えられます。この水準を目指して内部留保を積み上げることが、会社を守る最強の盾となります。
【ジレンマ】節税して税金を払わないと利益剰余金は増えない

多くの経営者が「節税したい」と考えますが、実は過度な節税は会社の財務体質を弱くしてしまいます。銀行評価と節税の切っても切れない関係を解説します。
「銀行評価」と「節税」は反比例の関係
利益剰余金は「税引後利益」の積み上げです。つまり、節税対策をして利益を圧縮すればするほど、利益剰余金は増えず、銀行からの評価も上がりません。
銀行は「税金を払って残った利益」を評価します。節税と銀行融資による資金調達のしやすさは、基本的に両立しないトレードオフの関係にあるのです。
税金を払ってでも利益剰余金を積み上げるべき理由
融資を受けて事業拡大を目指すなら、ある程度税金を払ってでも利益剰余金を増やすべき です。内部留保が厚くなれば、銀行からの信用力が増し、必要な時に低金利で多額の融資を受けられるようになります。
目先の税金支払いを嫌がって財務基盤を弱くするよりも、納税をコストと割り切り、将来の成長と安定のための「信用力」を買うという発想が、強い会社を作る秘訣です。
利益剰余金のマイナスを解消・補填するための具体的な方法

マイナスを放置していては、いつまでも銀行の評価は上がりません。マイナスを消し、健全な姿に戻すための具体的な手法は、主に以下の3つです。
1. 黒字決算を出し続け、時間をかけてマイナスを埋める(欠損填補)
2. 資本剰余金の取り崩しによる穴埋め(株主総会決議が必要)
3. 減資(資本金の減少)による帳簿上のリセットと注意点
それぞれ解説していきます。
1. 黒字決算を出し続けてマイナスを埋める(欠損填補)
最も王道かつ健全な方法は、本業で利益を出して黒字決算を続けること です。毎年の黒字(当期純利益)は繰越利益剰余金に加算されるため、時間をかけてマイナスを埋めていくことができます。
小手先のテクニックではなく、収益構造を見直し、売上増・コスト削減を徹底することが、結果として銀行からの信頼回復にも直結します。地道ですが、これが唯一の根本治療です。
2. 資本剰余金の取り崩しで穴埋め(株主総会決議が必要)
帳簿上の見栄えを整える方法として、資本剰余金などを取り崩して利益剰余金のマイナスを穴埋めする「欠損填補(てんぽ)」 という処理があります。
これは会計上の振替処理であり、会社の実質的な財産が増えるわけではありませんが、決算書上の「マイナス表示」を消すことができます。ただし、原則として株主総会の決議など法的な手続きが必要となるため、顧問税理士との慎重な相談が必要です。
3. 減資(資本金の減少)で帳簿上をリセット
資本金の額を減らし、その減少分を利益剰余金のマイナス補填に充てる「減資」 という方法もあります。例えば、資本金1,000万円を100万円に減らし、差額の900万円で累積赤字を消すといった処理です。
これにより見た目上の財務体質は改善し、配当が可能になるなどのメリットがあります。しかし、対外的な信用力への影響や、債権者保護手続きなどのコストがかかる点には注意が必要です。
利益剰余金がマイナスに関するよくある質問
利益剰余金のマイナスに関して経営者の方から頻繁に寄せられる疑問について、専門家の視点からQ&A形式で回答します。
利益剰余金がマイナスでも役員報酬は払えますか?株主配当はどうですか?
役員報酬は支払えますが、株主配当は原則としてできません。 会社法により、配当ができるのは「分配可能額」の範囲内と決められており、純資産が300万円を下回る場合なども配当は禁止されています。
役員報酬については、赤字であっても労働の対価として支払いは可能です。しかし、銀行融資の審査では「赤字なのに役員報酬が高い」とマイナス評価されることもあるため、バランスが重要です。
創業間もない時期のマイナスは銀行からどう評価されますか?
創業直後は初期投資がかさむ一方で売上が安定しないため、一時的にマイナスになることは珍しくありません。 計画的な赤字であれば、銀行も柔軟に見てくれることがあります。
重要なのは、そのマイナスが「事業計画の想定内」であり、将来的に回収できる見込みがあるかどうかです。ただし、無計画な赤字垂れ流しは創業期であっても厳しく評価されます。
利益剰余金のマイナス(繰越欠損金)は税務申告で有利になりますか?
会計上の利益剰余金マイナスと、税務上の赤字(繰越欠損金)は密接に関係しています。税務上の赤字がある場合、青色申告を行っていれば、その赤字を翌期以降(最大10年間)に繰り越すことが可能 です。
これにより、将来黒字が出た際に、過去の赤字と相殺して法人税を安く抑えることができます。マイナス自体は財務的に痛手ですが、税務上は将来の節税効果という唯一のメリットを持っています。
利益剰余金のマイナス対策や財務改善は「Encoach」に相談を
利益剰余金のマイナス解消は、一朝一夕でできることではありません。会計処理だけで表面を取り繕っても、銀行員にはすぐに見抜かれてしまいます。本質的な改善には、単なる税務処理だけでなく、銀行交渉や資金繰り改善を含めた「財務戦略」が必要です。
もし、現在の顧問税理士が「節税」の話ばかりで、「どうすれば銀行評価が上がるか」「どうすれば財務体質が強くなるか」という相談に乗ってくれないのであれば、財務に強い専門家のセカンドオピニオンを受ける時期かもしれません。
Encoach株式会社(エンコーチ) では、税務・会計のプロフェッショナルとして、中小企業の「お金」に関する悩みを解決し、強い経営体質を作るサポートを行っています。
- 自社の本当の財務評価を知りたい
- 銀行融資が受けられるか不安
- 赤字からの脱却プランを一緒に考えてほしい
このようにお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
▼ 公式サイト
https://encoach.jp/
まとめ:小手先の処理より「稼ぐ力」!早期にマイナスを解消し強い会社を作ろう
利益剰余金のマイナスは、会社がピンチであることを告げるサイレンです。放置すれば債務超過へと進み、取り返しのつかない事態になりかねません。しかし、早期に対策を打ち、本業で利益を出し続ければ、必ず健全な状態に戻すことができます。
銀行評価の高い、ちょっとやそっとでは揺らがない強い会社を作るために、今すぐ財務改善の一歩を踏み出しましょう。