「社員旅行の経費はどこまで認められるのだろう?」「税務調査で指摘されたらどうしよう…」と、社員旅行の経費計上でお悩みの経営者や経理担当者の方は多いのではないでしょうか。
この記事を読めば、社員旅行を経費として正しく計上するための5つの必須条件から、税務調査で否認されないための具体的な注意点まで、すべてが明確になります。
国税庁の基準をわかりやすく解説し、明日から使える実務ポイントを凝縮しました。
まずは結論!社員旅行が経費になるかならないか一目でわかる比較表

社員旅行の費用を「福利厚生費」として処理するには、国税庁が定める条件のクリアが必須です。
条件を満たさない場合、会社が負担した費用は「従業員への給与」とみなされ、課税対象となってしまいます。
条件の全体像を整理しましたので、まずは以下の比較表で確認しましょう。
| 項目 | 経費にできる(福利厚生費) | 経費にできない(給与課税) |
| 旅行期間 | 4泊5日以内(海外は現地滞在日数) | 5泊6日以上 |
| 参加率 | 全従業員(または職場単位)の50%以上 | 全従業員の50%未満 |
| 会社負担額 | 1人10万円程度まで(少額の範囲内) | 社会通念上、高額すぎる |
| 参加対象 | 全従業員(支店・部署単位も可) | 役員や特定社員のみ |
| 不参加者対応 | 何も支給しない | 現金を支給する(全員課税リスク有) |
これらは法律上の明記ではありませんが、実務上の重要な判断基準です。
社員旅行を経費にするための5つの必須条件
社員旅行の費用を「福利厚生費」として計上するには、国税庁の指針や実務上の目安となる5つの条件をクリアする必要があります。これらを満たさない場合、会社負担分が給与とみなされるため注意が必要です。
それぞれ詳しく解説していきます。
1. 旅行期間は「4泊5日」以内か?
福利厚生費として認められる旅行期間は、4泊5日以内と定められています。
この日数は一般的な社員旅行を想定した基準であり、これを超えると「単なる遊び」と判断され、給与課税されるリスクが高まります。
海外旅行の場合は、「現地での滞在日数が4泊5日以内」であれば問題ありません。
移動にかかる機内泊などは日数に含まれないため、例えば「4泊6日(機中泊含む)」のハワイ旅行でも、現地滞在が条件内なら経費として認められます。
2. 参加率は「全従業員の50%」以上か?
社員旅行は、従業員に公平な機会を与える行事でなければなりません。
そのため、旅行への参加者が全従業員数の50%以上であることが要件です。ここでの「全従業員」には、正社員だけでなく、普段から勤務しているパートやアルバイトも含まれます。
ただし、必ずしも全社一斉に行う必要はありません。
支店や工場といった「職場単位」で実施し、その部署の半数以上が参加していれば条件を満たします。現場の状況に合わせて柔軟に計画を立てましょう。
3. 会社負担額は1人あたり「10万円」が目安
会社が負担する費用は、世間一般の常識的な範囲内でなければなりません。
明確な法律の上限はありませんが、過去の事例から「会社負担額1人あたり10万円以内」が実務上の安全ラインとされています。
これは「少額不追求」という考え方に基づき、少額かつ一般的な行事であれば、あえて税金をかけないという趣旨です。
あまりに高額な費用負担は給与(経済的利益)とみなされるため、豪華すぎるプランには注意が必要です。
4. 全従業員が参加対象になっているか?
社員旅行は一部の特権的な人のためではなく、全従業員を対象として企画する必要があります。
「役員だけの旅行」や「成績優秀者限定の旅行」は、福利厚生費とは認められません。これらは地位や功績に対する報酬とみなされ、給与や賞与として課税されます。
経費計上するためには、全従業員(または職場単位の全員)に参加の機会を与え、その中から希望者を募るプロセスが不可欠です。
特定の人だけが得をする仕組みは避けましょう。
5. 不参加者に現金を支給していないか?
旅行に参加しない従業員に対し、費用の代わりに現金を渡すことは絶対にNGです。
「何もあげないのは不公平」という配慮でも、現金を渡すと「旅行か現金かを選べる状態」とみなされます。
選択権があると判断された場合、不参加者の現金だけでなく、参加者の旅行費用も含めて全員分が「給与」として課税されてしまいます。
節税のつもりが全員への課税を招くため、最も注意すべき落とし穴です。
💬 ひとことポイント
「1人10万円」はあくまで実務上の目安ですが、超えると否認リスクが急上昇します。最大の地雷は「不参加者への現金支給」。これをやると参加者も含めて全員が給与課税となるため、絶対におやめください。
※参照:国税庁
税務調査で指摘される!経費にできない社員旅行3つのNGパターン

基本的な条件を満たしているように見えても、実態が伴わなければ否認されます。税務調査で「福利厚生費として認められない」と指摘されやすい、代表的な3つのNGパターンを確認しておきましょう。
- 役員だけ・特定の社員だけの「ご褒美旅行」
- 家族・取引先が参加する旅行(費用負担の問題)
- 実質的に私的旅行とみなされるケース
それぞれ解説していきます。
1. 役員だけ・特定の社員だけの「ご褒美旅行」
参加者が限定されている旅行は、公平性の観点から福利厚生費として認められません。
例えば、「役員だけの旅行」は役員賞与とみなされ、会社の経費にならないばかりか、個人の所得税も発生します。
また、「成績優秀者の招待旅行」も同様に、功績に対する報酬(給与)として扱われます。
会社としては経費にできても、従業員には所得税・住民税がかかるため、福利厚生とは区別して考える必要があります。
2. 家族・取引先が参加する旅行
福利厚生費は、あくまで「自社の従業員」のために使われるお金です。
家族や取引先の同伴自体は問題ありませんが、その費用を会社が負担すると経費(福利厚生費)にはなりません。
- 家族の費用を負担:その従業員に対する給与として課税
- 取引先の費用を負担:接待交際費として処理(損金算入に制限あり)
トラブルを避けるため、家族同伴の場合は「家族分は全額自己負担」とし、会社からの支払いは従業員本人分のみに限定するのが鉄則です。
3. 実質的に私的旅行とみなされるケース
名目が社員旅行でも、中身が個人的な旅行と変わらない場合は否認されます。
税務調査では「会社の行事としての実態があるか」が厳しくチェックされるため、以下のようなケースは危険です。
- 完全フリープラン:費用だけ会社が出し、行動も食事も自由
- 名ばかり研修:スケジュールのほぼ全てが観光
これらは「私的旅行の肩代わり」とみなされます。
会社主導の団体行動や食事会を工程に組み込み、しおりや写真を証拠として残すことが重要です。
💬 ひとことポイント
税務調査で否認されると、会社は源泉徴収漏れ、社員は所得税増額という「ダブルパンチ」を食らいます。「バレないだろう」という甘い判断は禁物です。
【ケーススタディ】こんな社員旅行は経費にできる?ケース別判断基準

実務では判断に迷うグレーゾーンも存在します。ここでは具体的なケースを取り上げ、経費にできるかどうかの判断基準を解説します。自社の状況と照らし合わせてみてください。
- 海外への社員旅行(5泊7日・機中泊2日)
- 参加率が50%未満になってしまった
- 豪華すぎる旅行プラン
- 研修を兼ねた社員旅行
それぞれ解説していきます。
1.【ケース1】海外への社員旅行(5泊7日・機中泊2日)
結論から言うと、「現地での滞在日数が4泊5日以内」であれば経費として認められます。
海外旅行の場合、移動の機中泊などは日数にカウントしません。重要なのは「現地で何泊するか」です。
例えば7日間の旅行でも、往復の機内で2泊し、現地宿泊が4泊ならセーフです。
逆に、現地で5泊するプランは基準を超えるため、原則として給与課税のリスクが高まります。スケジュールを組む際は、現地滞在日数を基準に考えましょう。
2.【ケース2】参加率が50%未満になってしまった
原則として否認リスクが高いですが、事情によっては認められる事例も出てきています。
国税庁のQ&Aによると、「全従業員に参加の機会がある」「不参加者に現金を渡していない」等の条件を満たしていれば、結果的に50%未満でも認められるケースがあります。
ただし、これはあくまで「結果的に減ってしまった」場合の救済的な解釈です。
最初から少人数で行くことは推奨されません。基本は50%以上の参加を目指し、全員への案内などプロセスを確実に踏むことが不可欠です。
3.【ケース3】豪華すぎる旅行プラン
「社会通念上、妥当な金額」を逸脱すると、費用の「全額」が給与課税される恐れがあります。
例えば、会社負担が1人30万円を超えるような海外高級リゾートやファーストクラス利用は、福利厚生の範囲を超えた「私的な利益供与」とみなされます。
怖いのは、超過分だけでなく総額が課税されるケースが多いことです。
確実に福利厚生費として処理するためには、節度ある金額設定(会社負担10万円程度)を守るのが最も安全な対策です。
4.【ケース4】研修を兼ねた社員旅行
業務に必要な部分は「研修費」、それ以外は「福利厚生費」として区分します。
セミナー受講や工場視察など、明確な業務が含まれる時間は全額経費計上が可能です。
一方、観光や自由時間は福利厚生費となるため、社員旅行の要件(4泊5日以内など)を満たす必要があります。
重要なのは「研修」と「観光」を明確に分けること。スケジュール表や研修レポートを保管し、単なる観光旅行ではないことを客観的に証明できるようにしましょう。
💬 ひとことポイント
海外旅行は「機中泊を除いた現地滞在」で判定されます。ただし、豪華すぎる内容は全額否認のリスク大。実務上の目安(4泊・10万円)を守るのが無難です。
税務調査で慌てない!社員旅行の経費計上で必要な2つの実務対応

将来の税務調査で堂々と主張するためには、事前の準備と事後の処理が命です。ここでは必ず押さえておくべき2つの実務対応について解説します。
- 証拠書類(稟議書・参加者リスト・写真など)を必ず保管する
- 就業規則・福利厚生規程に明記する
それぞれ解説していきます。
1. 証拠書類(稟議書・参加者リスト・写真など)を必ず保管する
税務調査で最も重視されるのは、「その旅行が本当に行われたか」を証明できる客観的な証拠です。口頭説明だけでは不十分なため、以下の書類は必ず揃えておきましょう。
- 企画段階:稟議書、旅行代理店の見積書
- 実施段階:行程表、参加者リスト、現地での集合写真
- 事後:領収書、研修レポート(ある場合)
これらの書類は法人税法上、原則7年間の保存が義務付けられています。数年後の調査で困らないよう、体系的に整理して保管してください。
2. 就業規則・福利厚生規程に明記する
社員旅行が、会社の公式な制度であることを明確に示すことも重要です。
就業規則や「福利厚生規程」の中に、社員旅行に関するルールを明文化しておくことを強く推奨します。
- 目的:従業員の慰安と親睦
- 対象:全従業員
- 費用負担:会社負担の範囲
規程として明文化することで、「場当たり的なイベント(私的旅行)」ではなく、制度として運用されている証明になります。税務調査での説得力が増すだけでなく、従業員への公平性も担保できます。
💬 ひとことポイント
税務調査の対策は「証拠」が全てです。日程表や写真の保管はもちろん、就業規則への明記も忘れずに。口頭ではなく、客観的な資料で「会社の公式行事」であることを証明しましょう。
社員旅行の経費計上に関するよくある5つの質問
ここでは、社員旅行の経費に関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。日々の業務の参考にしてください。
Q1. 勘定科目は何になりますか?
基本は「福利厚生費」ですが、目的によって使い分けが必要です。
要件を満たす慰安旅行なら全額「福利厚生費」ですが、実態に合わせて以下の科目を検討します。
- 研修費・旅費交通費:業務に必要な研修や視察(移動費・会場費など)
- 接待交際費:取引先を招待した場合の、取引先負担分の費用
旅行の主たる目的がどこにあるかで判断しましょう。
Q2. 従業員の家族が参加した場合の費用はどうなりますか?
家族の分は会社負担にせず、「自己負担」としてもらいます。
福利厚生費として認められるのは従業員本人のみ。家族の分まで会社が出すと、その分は従業員への「給与」となり課税されます。
家族同伴を認める場合は、本人から徴収するか、給与天引きで精算するルールを徹底しましょう。会社が負担していなければ、給与課税の問題は発生しません。
Q3. 個人事業主でも社員旅行は経費にできますか?
「家族以外の従業員」を雇用していれば可能です。
法人と同様、従業員を対象とした慰安旅行であれば「福利厚生費」として計上できます。
ただし、「事業主と専従者(家族従業員)だけ」で行く旅行は、単なる家族旅行(家事費)とみなされ、経費にはなりません。
経費にするには、家族以外の一般従業員も参加していることや、強制ではなく任意参加であることなど、「事業上の福利厚生」である実態が必要です。
Q4. アルバイトやパートも参加率の計算に含める必要はありますか?
はい、原則として含める必要があります。
福利厚生は「全従業員に公平に提供されること」が要件であり、ここには恒常的に勤務しているパートやアルバイトも含まれます。
参加率50%を計算する際の分母にも含めてください。最初から除外して企画すると、機会の平等性が損なわれていると判断され、否認されるリスクがあるため注意しましょう。
Q5. 旅行先で会議をすれば研修旅行として認められますか?
単に「名目上の会議時間」を設けただけでは認められません。
研修旅行(業務)として経費計上するには、旅行先でなければできない理由や、明確な成果が求められます。
- 具体的な事業計画の策定
- 現地の工場や市場視察
こうした実質的な活動を行い、議事録やレポートを証拠として残す必要があります。観光がメインの実態であれば、会議以外の部分は給与課税される可能性があります。
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まとめ
社員旅行を経費にするためには、以下の5つの条件をクリアすることが基本です。
- 期間は4泊5日以内
- 参加率は50%以上
- 会社負担は10万円程度
- 全従業員が対象
- 不参加者に現金を渡さない
特に「不参加者への現金支給」は一発アウトの要因となるため、絶対に行ってはいけません。
また、税務調査に備えて、写真を残す、就業規則に記載するといった「証拠作り」も忘れずに行いましょう。
不明点がある場合は、自己判断せずに税理士へ相談することをおすすめします。