「利益は出ているのに現金が足りない」と悩む経営者は少なくありません。この原因は、キャッシュフローと減価償却費の関係性に隠れています。本記事では、キャッシュフロー計算書で減価償却費をプラスする理由から、資金繰りを改善するノウハウまでを詳しく解説します。減価償却とキャッシュフローの仕組みを正しく把握し、黒字倒産の不安を払拭する強い財務基盤づくりにお役立てください。
キャッシュフロー計算書など「財務三表」の関係性と基本

財務の全体像を掴むには、貸借対照表(B/S)・損益計算書(P/L)・キャッシュフロー計算書(C/F)の関係を知ることが大切です。それぞれの決算書がどう繋がっているかを見ていきましょう。
損益計算書(P/L)は発生主義、キャッシュフロー計算書は現金主義
損益計算書は、お金の動きとは無関係に取引が発生した時点で収益・費用を計上する「発生主義」で作られています。一方、キャッシュフロー計算書は実際にお金が出入りしたタイミングで記録する「現金主義」がベースです。
会計上の利益と手元資金にズレが生じるのは、この計上ルールの違いが原因。現金の動きを正確に追うには、キャッシュフロー計算書が欠かせません。
貸借対照表(B/S)の現金残高とキャッシュフロー計算書は連動する
貸借対照表は、決算日時点の会社の財産状態を示す書類です。キャッシュフロー計算書の「現金及び現金同等物」の期末残高は、原則として貸借対照表の「現金及び預金」と対応しています。ただし、3ヶ月超の定期預金の扱いなど範囲の違いにより、厳密には一致しない場合もあります。
損益計算書の利益から現金の増減を計算し、それが貸借対照表の資産として残る流れを押さえておきましょう。
キャッシュフロー計算書の「直接法」と「間接法」の違い
営業キャッシュフローの作成には「直接法」と「間接法」の2種類があります。
| 方式 | 概要 |
| 直接法 | 収入・支出の項目ごとに現金の動きを直接集計する |
| 間接法 | 税引前当期純利益を起点に、減価償却費などの非資金取引を調整して算出する |
実務では作成しやすい間接法が広く採用されています。
キャッシュフロー計算書で減価償却費をプラスする理由(間接法)

間接法の営業キャッシュフローを計算する際、減価償却費を足し戻す処理が行われます。お金の動きと費用の関係性から、その理由を紐解いていきます。
減価償却費は「現金の流出を伴わない費用(非現金支出費用)」だから
減価償却費とは、過去に購入した固定資産の費用を耐用年数に応じて分割計上する仕組みです。最大の特徴は、費用を計上するタイミングで実際の現金支出を伴わない「非現金支出費用」である点。
設備を購入した時点ですでに現金は支払済みです。そのため、決算期ごとに費用として配分されても、手元の資金が新たに減るわけではありません。
損益計算書(P/L)の利益と実際の現金のズレを調整するため
損益計算書の税引前当期純利益は、現金の流出を伴わない減価償却費が差し引かれた後の数字です。このままでは、実際に手元にある現金より少ない金額が表示されてしまいます。
このズレを修正するために、一度引かれた減価償却費をプラスして足し戻す処理を行います。この調整により、企業が実際に稼いだ現金の額を正確に把握できるようになります。
損益計算書に登場する利益の種類や、財務戦略への活かし方については、「[利益剰余金と当期純利益の違いとは?経営者が知るべき5つの活用法と財務戦略]」で詳しく解説しています。
営業・投資・財務の3つのキャッシュフローの見方
キャッシュフロー計算書は、現金の動きを3つの活動区分に分けて表示します。各項目をチェックすることで、会社の資金状況を立体的に分析できます。
キャッシュフローの3区分は以下のとおりです。
- 営業キャッシュフロー:本業で稼いだ現金の動き
- 投資キャッシュフロー:将来のための設備投資や資産売却の動き
- 財務キャッシュフロー:借入や返済など資金調達の動き
それぞれ解説していきます。
1. 営業キャッシュフロー:本業で稼いだ現金の動き
営業キャッシュフローは、本業を通じてどれだけの現金を生み出したかを示す、最も重要視すべき指標です。プラスであれば事業が順調に資金を稼いでいる証拠。逆にマイナスが続く場合は、売上不振や売掛金の回収遅れなどが疑われます。
2. 投資キャッシュフロー:将来のための設備投資や資産売却の動き
投資キャッシュフローは、固定資産の購入・売却や有価証券の運用などによる現金の動きを示します。積極的に設備投資を行う成長企業では、この項目がマイナスになるのが一般的。本業で稼いだ営業キャッシュフローの範囲内で投資できているかが評価のポイントです。
3. 財務キャッシュフロー:借入や返済など資金調達の動き
財務キャッシュフローは、借入・返済・出資受け入れなどによる資金の動きを表します。営業活動で稼いだ資金で順調に借入を返済できている状態が理想的です。3つのキャッシュフローのバランスを見ることで、会社の成長ステージが見えてきます。
減価償却費がキャッシュフロー・資金繰りに与える影響

減価償却費は直接現金を生むものではありませんが、手元の資金繰りを左右する大きな要因です。利益と現金の動きのギャップについて解説します。
減価償却費自体が現金を生み出すわけではない
減価償却費を足し戻すと聞くと、現金が増えるように錯覚しがちです。しかし、減価償却費自体が新たなキャッシュを生み出しているわけではありません。あくまで過去に行った投資の費用配分であり、計算の都合上プラスしているに過ぎません。本業でしっかり稼ぐ力がなければ、資金繰りは改善しません。
節税効果(タックス・シールド)によるキャッシュアウト抑制
減価償却費は損益計算書上で費用として扱われ、利益を圧縮する効果があります。これにより法人税などの税負担が軽減されます。この節税効果は「タックス・シールド」と呼ばれ、税金の支払いを抑えることで社外への資金流出を防ぎます。結果として、会社に現金が残りやすくなります。
節税効果を最大化するために法人が経費として計上できる項目の詳細については、「[【2026年最新】法人の経費にできるもの一覧|節税と財務戦略を徹底解説]」で詳しく解説しています。
簡易キャッシュフローと借入金返済のバランス
借入金の元金返済は経費として計上できません。そのため、税引後当期純利益と減価償却費を足した「簡易キャッシュフロー」の範囲内で返済を行うのが大原則です。簡易キャッシュフローが年間の返済額を下回っている場合、資金ショートの危険が高まります。
借入返済余力の源泉となる「会社の体力」を示す重要指標については、「[繰越利益剰余金とは?会社の体力を示す重要指標を経営に活かす方法]」で詳しく解説しています。
資金繰りに有利な減価償却のコツと特例制度の活用
減価償却の方法や特例を上手く活用すれば、初期の税負担を抑えて資金繰りを楽にできます。具体的な制度とコツを紹介します。
活用できる主な制度は以下の3つです。
- 定率法:初期に大きく経費化できる減価償却方法
- 少額減価償却資産の特例:30万円未満(令和8年度改正後は40万円未満)なら一括経費化
- 一括償却資産の特例:20万円未満なら3年均等償却
それぞれ解説していきます。
1. 定率法:資金繰り改善には初期に大きく経費化できる方法が有利
定額法は毎年同じ額を経費にしますが、定率法は購入直後に多くの減価償却費を計上でき、早期に税金を減らせます。トータルの経費額は同じでも、初期の手元資金を多く残せる点で資金繰りに有利です。法人では多くの資産で定率法が原則ですが、建物や無形固定資産は定額法のみとなります。
2. 少額減価償却資産の特例:30万円未満なら一括で経費にできる
青色申告を行っている中小企業が使える特例です。令和7年度末(2026年3月31日)までに取得した30万円未満の資産は、年間300万円を上限に全額その年の経費に落とせます。なお、令和8年度税制改正により、2026年4月1日以降に取得する資産は上限が40万円未満に引き上げられる予定です。
3. 一括償却資産の特例:20万円未満なら3年で均等償却できる
取得価額が10万円以上20万円未満の資産に使える制度で、通常の耐用年数に関わらず3年間で均等に経費化できます。少額減価償却資産の特例の年間300万円上限を超えた場合でも、この特例を使えば通常より早く経費化でき、税負担の軽減に役立ちます。
税抜経理方式を選択して特例の判定を有利にする
特例の適用基準となる金額の判定は、会社が採用している経理方式によって異なります。消費税を抜いた金額で判定できる「税抜経理」の方が断然お得です。税込31万円のパソコンも、税抜経理なら29万円弱となり、30万円未満の特例対象に含まれます。税理士に相談して税抜経理を採用しておくのがおすすめです。
経営者が陥りがちな減価償却とキャッシュフローの罠

節税や銀行からの評価を気にするあまり、誤った経営判断を下してしまうケースがあります。よくある2つの失敗例を解説します。
節税目的の過度な設備投資(中古車購入など)は資金繰りを悪化させる
「4年落ちの車を定率法で購入すれば全額経費で節税になる」という話は有名です。確かにその年の税金は減りますが、購入代金として多額の現金が手元から消えます。税金が減る額以上にキャッシュが流出するため、トータルの資金繰りは確実に悪化します。事業の利益に貢献しない見栄のための投資は控えるべきです。
赤字隠しで減価償却費を計上しないのは銀行融資でマイナス評価
赤字決算を避けるため、あえて減価償却費を計上しない会社が見受けられます。しかし、金融機関は決算書を見れば「減価償却を見送って黒字に見せかけているだけ」とすぐに見抜きます。粉飾まがいの処理は銀行の信用を大きく損ない、今後の融資審査において深刻なマイナス評価に繋がります。正しく計上しましょう。
財務状況を合法的かつ戦略的に最適化する手段の一つである決算期変更については、「[決算期変更で経営を最適化!メリット・デメリット・タイミングを解説]」で詳しく解説しています。
キャッシュフローと減価償却費を正しく管理して銀行融資を引き出すポイント

銀行から円滑に融資を受けるには、審査で重視される財務指標を意識した経営が求められます。チェックされる主な指標は以下の3つです。
- 簡易キャッシュフローと返済額のバランス
- DSCR(債務返済余裕率)
- 債務償還年数・自己資本比率
それぞれ解説していきます。
1. 銀行は「簡易キャッシュフロー」と「借入返済額」のバランスを見ている
銀行の融資審査では「事業で稼いだ現金で確実に返済できるか」が最重視されます。税引後利益と減価償却費を足した「簡易キャッシュフロー」と年間返済額が比較され、返済負担が大きいと判断されれば新たな融資は困難になります。無理のない返済計画を立てることが不可欠です。
2. 稼いだお金で返済できるかを示すDSCR(債務返済余裕率)
DSCR(債務返済余裕率)は、会社が稼いだ現金に対してどれだけ余裕を持って返済できるかを示す指標です。DSCRが1.0未満だと稼ぎより返済額が多い危険な状態とみなされ、銀行が安全と判断する目安は一般的に1.2〜1.5以上です。在庫の圧縮や固定費削減で営業キャッシュフローを増やし、この数値を改善していく努力が求められます。
3. 借入を何年で完済できるかを示す「債務償還年数」と「自己資本比率」
| 指標 | 概要 | 目安 |
| 債務償還年数 | 現在の借入金総額 ÷ 年間キャッシュフロー | 一般的に10年未満(製造業・宿泊業は20年が目安) |
| 自己資本比率 | 全資産に占める返済不要な自己資金の割合 | 一般的に30〜40%以上が安全水準 |
毎期しっかりと利益を出し、内部留保を蓄積していくことが自己資本比率向上の鍵です。
自己資本比率向上の鍵となる内部留保の正しい理解と戦略的な活用法については、「[内部留保はなぜ使わない?【図解】3つの誤解と経営者が本当に知るべき戦略的活用法]」で詳しく解説しています。
減価償却費を活用した財務指標(EBITDAとフリーキャッシュフロー)

減価償却費は、企業の価値や投資判断に使われる発展的な指標にも深く関わっています。代表的な2つの指標を解説します。
グローバルな収益力比較に使われる「EBITDA(イービットディーエー)」
EBITDA(利払い前・税引前・減価償却前利益)は、税率・金利・減価償却方法といった国ごとの制度の違いを排除した利益指標です。営業利益に減価償却費を足し戻すことで計算され、M&A時の企業価値算定やグローバル企業同士の収益力比較に重宝されます。設備投資による減価償却費の負担をフラットにして評価できる点が特徴です。
会社が自由に使えるお金「フリーキャッシュフロー(FCF)」
フリーキャッシュフローは、本業で稼いだ営業キャッシュフローから事業維持に必要な投資キャッシュフローを差し引いた金額です。この金額が大きければ、借入金の早期返済・株主配当・新規事業への再投資に回す余力がある証拠となり、投資家から高く評価されます。
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キャッシュフローと減価償却費についてよくある質問
キャッシュフローと減価償却費の関係について、経営者の方から寄せられる疑問にお答えします。
Q. 減価償却費が多いとキャッシュフローは良くなりますか?
A. 減価償却費が多いからといって、直接的に現金が増えるわけではありません。ただし、費用計上による節税効果(タックス・シールド)で法人税が減る分、手元に現金が残りやすくなる効果はあります。
Q. キャッシュフロー計算書は中小企業でも作成義務がありますか?
A. 会社法において、中小企業にはキャッシュフロー計算書の作成義務はありません。金融商品取引法に基づく有価証券報告書の提出が義務付けられている上場企業等に限られます。しかし、資金ショートを防ぎ、銀行からの信用を得るためには自発的な作成をおすすめします。
Q. 減価償却の耐用年数が過ぎた後、キャッシュフローはどうなりますか?
A. 耐用年数が過ぎて減価償却費の計上が終わると、帳簿上の費用が減るため会計上の利益は増加します。それに伴い法人税の負担が増えるため、結果的に税引き後のキャッシュフローは減少する傾向にあります。
Q. 固定資産を売却した場合、キャッシュフローはどう調整されますか?
A. 固定資産の売却による現金の入金は「投資活動によるキャッシュフロー」にプラスとして計上されます。一方、損益計算書に含まれる固定資産売却益は本業の儲けではないため、営業キャッシュフローの計算過程でマイナス調整されます。
Q. 土地は減価償却の対象になりますか?
A. 土地は時間が経過しても価値が目減りしないと考えられているため、減価償却の対象にはなりません。購入代金は全額が資産として残り、経費にならないため節税効果もなく、資金繰りを圧迫しやすい点に気をつけてください。
まとめ:減価償却費とキャッシュフローの関係を理解し、強い財務体制を構築しよう
間接法のキャッシュフロー計算書で減価償却費をプラスするのは、現金の流出を伴わない費用を利益に足し戻し、手元資金の動きを正確に把握するためです。この仕組みの理解が、黒字倒産を防ぎ銀行融資を引き出すための第一歩となります。
一方で、節税目的の無駄な設備投資や赤字隠しは、かえって資金繰りを苦しめる危険な行為です。適切な設備投資と利益の確保により、自己資本比率やDSCRを高めていくことがポイントです。
自社の現状分析や銀行目線の財務計画の策定に課題を感じている方は、専門家の力を借りるのも有効な選択肢です。Encoachに無料相談するにて、自社の財務課題を整理してみてはいかがでしょうか。
